これも2学期中に書いたまま、公開する勇気がなかなか出ませんでした。
しかし、冬休みの講座を行い、この問題は解決していないことが改めてわかりましたので、思い切って今年じゅうに、世に問う(?!)ことにします。
いまの中1~2、さらには高校生にもみられる、声の小さい生徒の問題です。
1) 声が小さい生徒の周りは、会話が減る
2)声が小さい生徒は、表情筋が弱い
3)声が小さい生徒は、音のワーキングメモリが弱い
という話です。
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今日は、もじこ塾が対応に苦慮している問題について書きます。
これについて書くのは、勇気がいります。
なぜなら、マスクの着用が関わる問題だからです。
マスクについてはいろんな考え方があることは、重々承知しています。
以下は、特定のあり方を強制するものではありません。
と申した上で。
マスク生活が長引くことによる悪影響を、私は目の当たりにしている気がするのです。
☆ ☆ ☆
マスクを外せない、つまり自分の顔をさらせない人がいるとは、すでに言われています。
それも、もちろん憂慮すべきことなのですが
最近、声がとても小さい生徒が増えています。
そのことが、本人にも、世代全体にも、想像以上の悪影響を与えつつあると感じるのです。
マスク生活4年目の今年は、全体的に例年よりフォニックスの定着が悪い印象があります。
小学校英語4年目なのに、むしろフォニックスの定着が悪いのです。
ブレンディングにも苦労がありますし、同音異綴りが入りにくいです。
(そして12月現在、定着が悪い生徒はほぼ例外なく、今もマスクをしています。)
声が小さな生徒とその周囲の生徒への悪影響を、3つあげてみます:
1)声が小さい生徒の周りは、会話が減る
声の小さい生徒は、ことばを発することにとても慎重です。
そのような生徒が一定割合存在すると、ディスレクシアは空気を読めますので、その場の雰囲気にあわせて慎重になります。
すると、クラス全体で思いっきり笑ったり話したりすることが、なくなります。
もじこ塾では、思いつくがままの自由な雑談を大事にしていますので、こうしたことがなくなるのは、ゆゆしき事態です。
2)声が小さい生徒は、表情筋が弱い
声が出ない生徒は、体に力が入らないようです。全身の筋力が弱いように見えます。
声を張らないようにと、マスク生活のあいだ意識し続けた結果、体がこわばっているようにも、力が入らないようにも見えます。
お腹から声を出せず、体を使っていない感じが強くです。体幹が弱く、腕もほっそりしています。
(大学生の助手たちが「自分が中1のときは、自分も周りももっと体格がよかったが、、」と言っています)
この筋力のなさが、読み能力に影響を与えているように感じます。
体幹が整うと読み能力は安定しますし、訓練の負荷にも耐えられるようになります。
表情筋も乏しいです・・・マスクで隠れているので、めったに見えませんが。
たまに見えると、つるりとした、表情のない顔をしているので、とても心配です。
英語はもともと、日本語より表情筋を使いますし、息を勢いよく出します。
声の小さな生徒が腹筋も表情筋も萎縮していることは英語、特にフォニックスを指導すると一発でわかります。
そして、ディスレクシア英語指導の前提となる考え方である
発音できる音は聞き取れる。
ディスレクシアは、聞き取れた通りにスペルしてしまう。
からすると、発音できない音はスペルできないので、表情筋がないのはスペルできないことにつながります。
3)声が小さい生徒は、音のワーキングメモリが弱い?!
そして何より、憂慮すべきことは、
声がとても小さい生徒は、他人が発したことばを、覚えていられないらしいのです。
「音のワーキングメモリが萎縮している」
という表現が浮かびました。
それも、去年よりも今年の方が、萎縮傾向が強まっているように見えます。
これは、真剣に対処しなければ、生徒とその世代全体に重大な影響を及ぼす危険があります。
一度、あまりにも声が出ない生徒を呼んで、話を聞いたことがあります。
その生徒も、がっちりとマスクをしています。
「r・ai・nって書いてあるよ。つなげてごらん」と後押しすると「ライン?ん?」と首をかしげています。マスクの中にとどまっているような、小さな小さな声です。
「フォニックスは難しい?」
と聞くと、蚊の鳴くような声で
「難しい。音を覚えていられない」。
(丁寧語を使えないのも、このような生徒の特徴です)
音を覚えていられない・・・!
どうやら、「文字を見て音素を想起できない」のではなくて、「教師が言った音素を覚えていられない」らしいのです。
これは衝撃でした。
この生徒は続けて、
「英語は難しいし、興味はない。 できるようになりたいと思わない」
と言います。
「まあ、、英語は難しくて大変だよね。でも、フォニックスの練習を続けたら、いいことがいっぱいあるよ。あと、音の訓練も続けると、もっと覚えていられると思うよ」
(音韻認識の訓練のことを念頭に置いて言っています)
すると
「友達が言っていることも忘れちゃうし」と言うのです。
「友達の話を覚えていられないの? それは大変だよ。今から練習した方がいいよ。
フォニックスで音を覚えている訓練を続けたら、友達の話も覚えていられるかもよ」
と私が言うと、なんと
「周りもみんなそうだから、そんなに困ってない」と、その生徒は言うのです。
周りもみんなそう・・・!
クラスメイトも声が小さく、音の記憶が悪い。
相手の話を覚えていられない。
そんな教室には、にぎやかなおしゃべりは、きっとないでしょう。 会話のキャッチボールが成立しているかあやしいものです。
互いにかみ合わない発言、拾ってもらえない会話の切れ端が、ただ空中に漂うだけ。そんな休み時間の様子が浮かびました。
この問題は私が思っているよりもずっと大きいのかもしれない、そう思った瞬間でした。
それ以来、私は保護者に聞いたり、他の生徒にも尋ねてみるようになりました。
「学校のクラスに、すごく声の小さい生徒がいませんか?」
やはりというべきか、全員が「いる」と言うのです。
高校生からは
「そういう子に『何言ってるかわかんないよ』って注意したら、先生に『そういうこと言わないで』って怒られた」
「そういう子がいると気を使うし、盛り上がらないからつまらない」
という発言がありました。
声の小さい子は、周囲の学びにもじわじわと影響を与えているのです。
でも、やはりそれ以上に、音のワーキングメモリーが著しく低いことが、声が小さい子自身の発達に重大な影響を与えていると思われます。
私はこれを、マスク生活の影響だと思っています。
人の口を見る機会がなかったこと、三密防止、ソーシャルディスタンス、そして給食時の黙食。
そういう生活が長かったため、ことばを交わす機会が少なくて、それで声の出し方がわからなくなっているのかもしれません。
生徒や保護者に「コロナ中、友達の家に行って遊ぶことはあった?」と聞くと、かなり多くの子が
「さすがに最初の1年はなかったよね」と言います。
こういうことも影響を与えているのではないでしょうか。
また、自粛期間中に「マスクをきちんとつけなさい!」と通りすがりの叱責されたのをきっかけに声が出なくなったり、マスクを外せなくなったりして、それがいまだに続いている…という声も聞きました。
この克服には時間がかかるでしょう。
もしかしたら一生残るかもしれない、と小学校の半分を共産圏で過ごした影響が今も消えない私は思います。小学校高学年の子は大人よりもずっと根底的な影響を、自粛生活から受けてしまったようです。
そして、ことがコミュ力の著しい低下ならば、上の世代があたたかく接して、時間をかけて克服をサポートすべきだと感じます。
これは個人の問題ではありません。
大人全体が意識して、割を食ってしまった世代に働きかけなければならない、そんな問題だと感じています。
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最後に・・・
上のように申しておきながら、厳しいお願いになってしまうのですが、
次年度、もじこ塾への入塾をご検討の方は、マスクを外し、口元を見せて声を出せるよう、ご家庭であたたかく声かけをして、ご準備をお願いできれば幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。