2013-07-08

スポーツとリーダーシップの才能を開花させたディスレクシア:中竹竜二『鈍足だったら、早く走るな』




超ポジティブなディスレクシアの当事者本です!

著者の中竹竜二さんは1973年生まれ。
早稲田大学ラグビー部の伝説的主将にして、現在は全日本のコーチの育成を行っている方です。

本書はジャンル的にはビジネス書ですが、ディスレクシア的には「底抜けにポジティブなディスレクシアの発想」を知ることができます。

美術や工芸方面に秀でたディスレクシアの人の話はけっこう聞きますが、スポーツとリーダーシップに優れたディスレクシアの、本人による話は、日本語では本当に珍しいです。

「中竹さんは僕がこれまで知った人の中でもっとも『凄い人』です。
彼のストーリーにとくと耳を傾けて下さい」
--楠木建(一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授)
大学選手権2連覇に導いた、元・日本一オーラのない監督の、「どんな人でも輝く」才能の見つけ方

と帯にはあります。

[小学校の]国語の時間でした。先生にあてられて、みんなの前で本を声に出して読もうとしたとき。(あれっ)?マークが頭のなかをかけめぐりました。頭で読んでいる文字が言葉にならないのです。声に出すと不思議と違う言葉になり、つまずいてしまう。・・・何とも気まずい思いを胸に、黙って腰を下ろしました。他の教科では自分より成績が悪いはずの友人がすらすら読めるのに、ナゼなんだろう。・・・
自分がいわゆる読字障害であることがわかったのは、かなり後のことです。当時は、自分と他の友達が違うことを認めるのが、ただただ怖かった。

いわゆる典型的なディスレクシアの症状です。
中竹少年がすごいのはこの後です。
四年生のとき、「暗記してしまえばいい」と思ったというのです。
毎晩、夜中までかけて、教科書の漢字を調べながら暗記を敢行。
担任の先生にも恵まれ頑張ったものの、しかし暗記作戦はほどなく挫折。
普通に、人並みにできるようになるには、自分は普通にやってたらダメだ」と気づき、その頃から先生の言う通りでなく、自分なりに方法を工夫するようになっていたとのこと。

最終的に覚えればいいのなら、書く必要はないんじゃないかな
黒板を1枚の絵と見立てて、まるで念力のように、じっと目に焼き付けるようにしてみました。・・・その後も、ノートを取るのは一切放棄し、小学校5年生ぐらいからはノートを買うことすらヤメてしまいました。・・・
覚えるために、同じこと何度も書くなんて意味がない・・・」ならば、一回書いて5分見る。一回書いたら、それを見ないで違うページに書くというやり方がいいんじゃないか。またもや先生の言いつけを無視して、自分のやり方で書き取り問題をクリアしていました。

ここまで自力でたどりつくとは、なんて戦略的なのでしょう!!
うちの子がそこまで考えられたら、力一杯ほめてあげたいです。
でも、ノートを買いすらしないのを、私なら信頼して見守れるか、自信がありません・・・

#子に上の引用部分を読んであげたところ、すごく受けていました。
「黒板をじっと見て覚えてみたら?」と聞いたところ、「それは無理でしょ~」とのことでしたが、実は思いも寄らなかったに違いありません。



タイトルの話もすごい。
「鈍足」だった中竹少年は(とはいえ50m7.6秒まで行ったそうですが)、普通の人なら倒れてから「イテテ・・・」と立ち上がる数秒間を、自分はぱっと立ち上がって動けばいいと気がつきます。
ボールがある場所に早く動けばいい」、「「次にボールがどこに行くのか」を先回りしながら動けばいい」と気づき、小学校高学年くらいにはチームメイトから一目置かれる存在になったとのこと。

ならば、試合時間の80分間、絶対に全力で走らない。・・・なぜなら、全力で走ったところで鈍足であることは変わりがないのですから。全力疾走をせず、その分、時間いっぱい余力をもって動き回り、運動量で勝負したほうがいいと考えたのです。

なんという逆転の発想!!

高校受験は、東筑高校(進学校でありラグビーの強豪校)に入りたくて、猛勉強したそうなのですが、そのやり方も相当に戦略的です。
県立高校なら教科書以上のことは出ないだろうと踏んで、教科書だけを徹底的に勉強したのもそうですし、
「塾で勉強の仕方を押しつけられるのが何よりきらいだった」、でも情報はほしいので、塾から帰るところの友人にベランダから声をかけて、雑談ついでに受験の情報収集をしていた(!)というのです。

こういう不思議な社交性は、とてもディスレクシア的だと思います。
二次障害がなければ、ディスレクシアは本来こういう人たちでしょう。
学校の成績はいまいちでも、友達は多く、対等につきあっている。
高圧的にも卑屈にもならず、欲しい情報をさりげなく得てしまう・・・

ディスレクシアの最大の才能は、think outside the box(直訳すると「箱の外に出て考える」、枠にとらわれない、さらには枠を壊したり、「そもそも枠って何?」というイメージ)ができることにあると言います。
本書はそういった、枠を壊したり逆転させたりするエピソードが満載です。

何より、全編がポジティブトーンなのがすばらしいです。

ディスレクシアの子は、長い目で見て、工夫したり失敗したりできる環境を与えてあげさえすれば、好きなものを見つけたあとは持ち前のエネルギーで勝手に伸びていくだろう。そう信じられる本です。




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