ディスレクシア専用英語塾「もじこ塾」のブログです。 ●ディスレクシアとは:知能は普通だが、読み書きが苦手(読み間違いが多い、読むのが遅い、書き間違いが多い、読むと疲れやすい)という脳の特性 ●全体像の把握、物事の関係性・ストーリーの把握、空間把握、ifを考えるシミュレーション能力に長ける ●読み書きの困難は、日本語より英語に出やすい ●適切に対処すれば、読みの問題は表面上は克服される ●10人に1人程度いるというのが通説 ●家族性とされるが、ディスレクシアの表れ方は個人差が大きい もじこ塾は、ディスレクシアはこれからの社会に不可欠な才能、でも日々の学習では普通と違うアプローチが必要、という立場です。

2022-10-09

フォント・スイッチ・プロジェクト(2)もじことジョリーフォニックスの深い関係

「フォント・スイッチ・プロジェクト」(byモリサワ)のインタビューに登場!→

記事に登場する「ジョリーフォニックス」。
21世紀の新しいフォニックス「シンセティック・フォニックス」の代表的プログラムのひとつです。

今回は、ジョリーともじこの関係について書きます。
もじことジョリーには、深い関係があるのです。


ジョリーのフォニックス表。satipnで始まる
ジョリーの42音の表。satipnの順


2013年。「ディスレクシアにはフォニックスを教えるべき」と、このブログのコメント(だったと思います)で強く言われていたもじこは、「フォニックスってなんぞや?」と暗中模索を続けていました。
当時の私は、東大はじめ難関大志望の受験指導はあっても、アルファベットを教えた経験はなかったのです。その部分をどうやって教えるかは、皆目見当がつきませんでした。

松香さんの研修にも行きました。
トレーナーさんはとても親切でしたが、ディスレクシアのことはご存じありませんでした。

同年夏。
ジョリーの伝道師、山下桂世子先生が、クリスさん(ジョリーラーニング社社長。ジョリーフォニックスの名はこの方の名字に由来)を連れて、日本初上陸の講演を大阪で行いました。
いろんな偶然が重なり、私はこの講演を会場で聞きました。
日本にシンセティック・フォニックスが上陸した瞬間と言っていいでしょう。
私は「?!これは?!」と思い、講演終了後、山下先生のところに駆け寄り、そこから山下先生とは同志になりました。

クリスさんにも直接話しました。教え方を聞いて、最初の実験台に試しました。
(いまではこの方法は採用していないので、リンクは張りません。どうしても興味のある方はこのブログを掘ると当時の様子が出てきます)
言われていたよりもかなり時間はかかりましたが、たしかに入りました。

☆  ☆  ☆

ジョリーフォニックスはこの講演を機に、少しずつ広まっていきました。
効果をはかる研究も始まりましたし、教室に導入して大きな効果をあげる人も出てきました。

最初は英語版しかありませんでしたが、2017年には日本語版も登場。
もじこは上陸講演会のときにクリスさんと山下先生とのご縁を得たのがきっかけで、ジョリーフォニックス日本語版のティーチャーズブックの翻訳のお手伝いをさせて頂きました。
このシリーズは本当に、山下先生の思いが詰まった一大労作。

『はじめてのジョリーフォニックス』

※このセットの肝はティーチャーズブック(教科書+マニュアル)です!
ステューデントブック(生徒用ワークブック)だけでは教えられませんので注意。


日本語版の出版をきっかけに、ジョリーフォニックスの日本進出はさらに加速。
年々、着実に広まり、現在に至ります。

(でもまだまだこれからです。フォニックスは小学校で教えられるべきであり、 
ジョリーフォニックスはそのなかで大きな役割を果たせる存在です。
小学生へのフォニックス指導用のパッケージとしては、もじこは昔も今も、ジョリーフォニックスを全力でお勧めします!)

☆  ☆  ☆

一方、時計の針を少し戻すと・・・
私はといえば、ブログにジョリーを教える様子を書いていたことがきっかけで、「自分の子にもここに書いてあることを教えてほしい」と連絡して下さる方が現れました。
暗中模索はさらに続きました。。。いつでも最善を尽くしているつもりですが、今ならそうはしないだろうということを、たくさんしました。

そうしているうちに、もじこのディスレクシア中学生へのフォニックスの教え方は、ジョリーから少しずつアレンジを加えたものになっていきました。

そうして完成したのが、今回フォント・スイッチ・プロジェクトで提供しているフォニックス表です。2017年頃には現在の形になっていたと思います。大きな違いは:

・アクションは使っていません。小学生にはかなり効果的ですが、私が教える中学生は恥ずかしがってなかなかしてくれないのです💦。絵もありません。

・母音と子音を色分けしました。音素という概念を理解してもらうには、効果があると思っています。

・あいまい母音も教えています。2音節以上の単語を読んだり、文をリズム良く読んだりするためには、必要な概念だと考えてのことです。

・最も違うのが、二重母音(名前読み)の扱いです。
ジョリーではai、ie、oaなどを採用していますが、私は「a, e, i, o, uにはロングの読み方がある、それはこの字の名前で読む読み方」と説明しています。
そのほうが、中1の英語の教科書の単語につなげやすいですし、高校生になったときにも言及しやすいのです。(例:長い単語を読むときに、「このaはロングで読むんだよ」と言えます)




そうそう、satipnとは何か。
satipnは、ジョリーで採用されているフォニックスの配列です。
ざっくり頻度順のため、1列目、極端な話をすれば最初の3文字を教えただけで、ブレンディングの練習ができます。
いまではイギリスのフォニックス指導において標準的な配列と聞き、採用しました。

もじこ塾で、生徒にこの表はざっくり頻度順ですと伝えると、
「1列目は、何がなんでも覚えるべきということですね」
と言った生徒がいました。その通りです!

☆  ☆  ☆

このような改変を加えることで、ジョリーさんに怒られる…ことはないと信じています。
まず、対象とする年齢層が違うという点が大きいです。
また、これは目の前の生徒にあわせて行ったアレンジなので、その趣旨はきっと理解されるだろうと思っています。

ジョリーフォニックスは、未就学児から小学校中学年くらいまでの心をわしづかみにするような工夫が施されています。それらが中学生にはいまいち刺さらないのは当然のこと。
逆に、上にも書きましたが、もじこは小学校中学年くらいまでは、ジョリーフォニックスを全力で推奨します!

また、もじこ塾で採用しているフォニックスについても、唯一絶対の完成形とは思っていません。
目の前の生徒にあわせて、改変してよいし、すべきとも思っています。

(とはいえ、ディスレクシアに適したフォニックスの教え方に沿っていることが大前提です。「明示的・網羅的・段階的・反復的に文字と音の対応を教える」ことです。
また日本語母語話者を対象とする以上、「音で入っている単語量がネイティブよりも圧倒的に少ない」という点を加味して改変を加えることも必要です。この話は長くなりますので、またの機会に。)


・・・というわけで、「フォント・スイッチ・プロジェクト」で提供したフォニックス表は、ジョリーフォニックスの考え方をベースにアレンジを加えたものだという話でした!

2022-10-07

[告知]10/11(火)22~23時、clubhouseで話をします!

もじこがclubhouseデビューします!→


10月はディスレクシア啓発月間。

そこで、りえ先生(twitter:@RidiamR)に招かれ、clubhouseで話をします。

題して「個別最適化された英語教育を目指して」


りえ先生ともじこは戦友同士。

2013年、今では伝説となった「まなび支援の会」研究会で、事務局と参加者としてお目にかかったのが初対面でした。

以後10年(!!)、それぞれにディスレクシア英語教育の道を進んでまいりました。


11(火)のclubhouseでは、

  • なぜディスレクシア英語教育の道に入ったのですか?
  • 10年前のあの会以降、何をしていましたか?


といった話題で話す予定です。

りえ先生は、村上加代子先生のメソッドを最も近くで見て、それをずっと現場で実践してこられた方。

私はと言えば、当ブログで公開してきた通り、もじこ塾を作って6年目に入りました。

これまでの道をお互いに振り返ることで、日本ディスレクシア英語教育史(また大きく出たな…)の一端を明らかにし、今後の展望を探ります。

シンセティック・フォニックスを日本語ネイティブにどう教えるか、

それも、読み書きに困難がある生徒に、どう教えるか。

といった話になる予定です。


ご興味のある方はぜひ!

https://www.clubhouse.com/event/xVbKr3Jj?utm_medium=ch_event&utm_campaign=cn-Qph93SKhFZ7RDWUr74A-401576

※clubhouseは今は招待制ではありません。

また、androidでもアカウントを作れます。

2022-10-01

NY市長、市内すべての公立校でディスレクシア検査/指導/研修を宣言

Mayor Adams Announces Comprehensive Approach to Supporting Students with Dyslexia(アダムスNY市長、ディスレクシアの生徒への包括的支援策を発表)



「NY市という世界最大の公教育システムで、K~12(幼稚園~高3)をの公立校の全生徒を対象に、ディスレクシアの検査と訓練を実施」市長が公約に掲げて当選

というニュースが5月にありました。
記者発表の動画から、発表内容をまとめました(KUさんご紹介ありがとうございます)

~~~

読むことに困難のあるすべての生徒(ディスレクシア含む)を対象に、
「進歩的な、社会正義に基づく教育モデル」に基づく、包括的な介入を行う。

包括的な介入とは・・・
  • 年3回、スクリーニングを実施(K~12)。
  • このスクリーニングに何度もひっかかった生徒は、詳しく検査。
  • 取り出された生徒はオートン・ギリンガムベースのプログラムを受ける。
  • dxに関する教員研修を行うなど、教員をサポート。
  • dx専用教育を行う学校を、各学区に1校設ける。

具体的には・・・

・【全員に検査】

at-riskな生徒を特定:今年(2022年)9月より年3回、実証済みの短いリテラシー・スクリーニングを全員に実施。


・【詳しい検査】

他の生徒よりも顕著に低い成績を何度もとった生徒を取り出し、ディスレクシアのリスクを評価する専用のスクリーニングを行う。


しかし、リスクのある生徒を特定するだけでは不十分。こうした生徒を、通っている学校でフルサポートできることが必要。そこで・・・


・【専用指導、教員研修】

長年この問題にたずさわってきたfamily literacyとps125が、今年の秋から直接指導の専用プログラムを実施。

「深い(deep)」ディスレクシアの生徒に対し、学習への包括的介入を行う。

あわせて教員研修も行う。


【他の学校に知見を広げる】

・上記プログラムで得た知見を市内の全公立校で共有し、読み教育を改善していく。


【週4指導を行う学校を各学区に】

・直ちに追加プログラムを実施。2023年秋までに、ディスレクシア専用教育を行う学校を、各学区に1校設置。

・80の小学校と80の中学に校内チームを設置。このチームは校内で週4回、少人数の介入を実施。そのために、教職員のサポートと研修も行う。


【フォニックス】

・全校に対し、フォニックスベースのリテラシーカリキュラムへの移行を要請。


【その他】

・それほど"深い"介入を必要としない生徒への対処方法に関する教員研修も実施。

・ディスレクシア専用作業部会を設置。
また、一般市民、リテラシーの専門家、公立校の教職員・生徒・保護者からなる諮問委員会を設置。


質疑応答
※低学年だけでなく、高校や大学でディスレクシアと判明する人の多さを考慮し、できるだけ上の学年にも広げたい。また刑務所内でも検査を行う。刑務所に入るきっかけとなった行動を繰り返さないためにも(39:44)。

※研修は、全教科の教員が対象。読むことに直接関わらない教科も含め。

※フォニックス・ベースのプログラムとは、オートン・ギリンガムをもとにしたものを指す(47:33)

その他、印象に残った表現:
・(市長、「もしも、このプログラムをご自身が子供の頃に受けられていたら?」の問いに)
今ごろ、市長ではなく大統領になってたかもね(笑)それはともかく…母は小3までの教育しか受けていなかったので、自分が学校で読めず苦しんでいても、途方に暮れるだけで何もできなかった。子供が苦しんでいるのに見ているだけしかできない、その母の様子は今でもトラウマ。これは仲間に対してもそう。読めずに学校を中退し、そのまま道を誤っていった仲間もいた。ディスレクシアは心の傷の問題でもある。

・検査は何百ドルもするので、黒人やヒスパニック系には払えない。
・(これに対しては「私の息子はディスレクシアと診断されたあと、専用の学校に行かせて読めるようになった。これを州内のすべての子供に広げたいのです」と感極まる保護者代表(白人)も登壇。)
・受刑者の3分の1は簡単な書面も読めない。
・人口の20%はディスレクシアだが、5%しか特定できていない。15%を救うためのプログラム。
・読み能力を獲得できれば収入を得られるし、犯罪から刑務所送りとは無縁の人生を送れる。

この政策の実現に寄与した、保護者代表、支援者代表、などが出てきてスピーチする1時間。
こういう時のアメリカ人のスピーチは、本当に感動的です・・・(TT)

ディスレクシア教育とは、全員を読めるようにすることであり、
これは社会正義の問題である・・・というのが、
アメリカの行政がディスレクシア問題を語る際の、日本との大きな違いかもしれません。
「安心して暮らせる地域社会を作るには、読めない人を減らすことが本当に大事で、みんなで取り組まなくてはならない課題なんだ」という姿勢が、ひしひしと感じられます。

ディスレクシア的にハッピーな世界を作る戦いは、本当にリレーですね。
本人はもちろんですが、研究者、教育現場、保護者、支援者、そして行政。
それぞれが自分のことばかりではなく、他人のこと、次世代のことを考える。
リレーの前後の人に感謝しながら、自分の持ち場でできる変化を起こす。
そうやって、社会変革はちょっとずつ可能なんだなと感じます。

最後に・・・
来年、世界ディスレクシア会議(world dyslexia assembly)を主催し、NY市の成果を報告する」と言ってます!
行きたい・・・(・∀・)