on dyslexia

ディスレクシアとは:

- 知能は普通だが、読み書きが苦手(読み間違いが多い、読むのが遅い、書き間違いが多い)。
-勉強しているにもかかわらず、読み書きがなかなかできない状態を指す。知的障害ではなく、普通~ギフテッドのあらゆるIQにみられる。
-独創的で、対人能力が高い。
全体像の把握、物事の関係性・ストーリーの把握、空間把握、ifを考えるシミュレーション能力に長ける。
- 音と文字の脳内での結びつきが弱いことから起こるらしい
- 読み書きの困難は、日本語より英語に出やすい。その理由は、英語のほうが日本語よりも"音の粒"が小さいから
- 細かい聞き間違いがみられるが、音声情報の処理能力は高い場合が多い
- エピソード記憶が得意。固有名詞などの細かい丸暗記は苦手
- 適切に対処すれば、読みの問題は表面上は克服される
- 10人に1人程度いるというのが通説
- 家族性であり、遺伝による。ただしディスレクシアの表れ方は個人差が大きい

当ブログは、ディスレクシアはこれからの社会に不可欠な才能である、でも日々の学習では普通と違うアプローチが必要--という立場です。

2017年、当ブログで分かったことをもとに、東京・新宿にディスレクシア英語塾「もじこ塾」を開設。以来、このブログももじこ塾の話題が中心になっています。

2018-10-29

IDA日記その2:レメディエーションとは、過酷なものらしい


無事に帰国しました~。リムジンバスの中でこれを書いています。

IDAの参加者たちはどうやら本当に、去年の宿題を持ち帰って生徒に試してみて、再び集結しているように見えました。
変化のスピードが速いです。

去年はResearch to Practice(「研究成果を授業にどう生かすか」)がキーワードでしたが、
今年は「音韻認識をどう教えるか」の発表が多かったです。

もちろん、フォニックス(音と文字の対応を教えること)それもシンセティック・フォニックスはすでに当たり前となっており、alphabetical phonics(アルファベット順に教えるフォニックス)は、旧時代の遺物としてたまに言及される程度です。

・「アコモデーション(配慮)とレメディエーション(読み書きの訓練)は、同時並行で行うべきもあちこちで指摘されていました。(assisted technology(IT機器の使用)の発表は少なめでした。)

これらの点について、私の結論を先に申しますと・・・

(1) 合理的配慮は、英米の学校制度や価値観の中でこそ、初めて理解できるもの
日本の受験生が合理的配慮を使う場合は、配慮の背景にある社会や価値観が日本とは違うことを理解して、その上で戦略的に使うべき。

(2) レメディエーションは、とても過酷なものらしい。
 そして、もじこ塾の一部の授業は、すでにレメディエーション化しているらしいΣ(゚Д゚)

合理的配慮については、近日中に改めて書くとして、ここではレメディエーションについてまとめてみます。
以下、かなり技術的に細かい内容です:

☆  ☆  ☆

・レメディエーションは、苦手にフォーカスして、パフォーマンスのギャップ(読み書き能力と知的能力との差)を埋めるために行うもの。

・以下が必要:
(1) Structured(体系的、構造的)
(2) Sequential(順を追って)
(3) Overlearning(反復的)
(4) Research-Based(科学的研究に基づく)
(5) Multisensory(多感覚)

(1) Structured(体系的、構造的)
  私はこれを「網羅的」と理解しました。英語の音はすべて教える必要があるし、中学文法にしても高校文法にしても極力、「これで全部だよ」というものを示しながら教える必要があるということでしょう。
  個人的には今回、ようやく腑に落ちた概念のひとつです。

(2) Sequential(順を追って)
  これは「前に教えた知識の上に、新たな知識を教えること」。
  例えば、-ir-erと同じ発音だと明示的に教えないうちは、-irが入った語を読ませてはならない、ということです。
 「この点は厳格に守りたいところだが、コントロールされていない文章に、生徒は学校で触れてしまう」とのことでした。日本でも事情は同じですね。

(3) Overlearning(反復的)
  反復が大事という意味です。オーバーワークが大事という意味ではありません^^;

(4) Research-based(研究成果に基づく)
  IDAではオートン・ギリンガムが神聖視されています。そんななか「彼らを北極星としつつも、最新の研究成果を取り入れて聖人を乗り越える必要がある」・・・という文脈で登場していました。
また「教師は、自分が習った方法を絶対だと思ってはならない」という意味や、Reading Wars(フォニックスvsホールワード派をめぐる議論。政治論争にまで発展)のような不毛な戦いが、再びあってはならないという意味もありそうです。

(5) Multisensory(多感覚)
  これはなかなか曲者な概念。人によって定義が違います。
「マルチセンサリーな音韻認識の教え方」という発表に行ってみるも、7色のマグネットを使うことだったり(その程度でもいいんですね)

それなら「犬に読み聞かせをする」ほうがよっぽど多感覚じゃないかと思ったり(この発表はものすごく期待していたのですが、普通というか予想の範囲内の内容でした)

読み書きを教えるのに、文字と音以外の手段を使うなら、とりあえずはすべてマルチセンサリーと名乗っていいようです。ううむ。

~~~

「オートン・ギリンガム法をアップデートする」というシンポジウムで、州立病院で行われているというレメディエーション・プログラムの授業内容が紹介されていました:

(1) handwriting(字を書く練習
(2)音韻認識 
(3)フォニックス/デコーディング 
(4)文法 
(5)コネクテッドテクスト(まとまった文章を読む)
(6)スペリング

なんと!中学生クラスの授業内容とほとんど同じじゃありませんかΣ(゚Д゚)
アクティビティの大まかな順番や、最初が筆記体で、最後にスペルを書かせる点まで同じ…!

この話をしながら、発表者は感極まって涙で声を詰まらせてしまい、場内は若干引いてました()
しかし私はそれで分かりました。このレメディエーションは相当に過酷なのだろうと。
なぜなら、もじこ塾の生徒も同じだから。本気で速読みや音読で生徒を追い込むと、かわいそうなくらいヘロヘロになるからです。
そこから、もじこ塾の中学生(と一部の大学受験生)の授業は、いつのまにレメディエーション化していたことが分かりました。

ちなみに、発表のレメディエーションは
5日、毎回1時間、対象は小27(1)1クラス45人、期間は2年間
とのことでした。
読み書き能力は大幅に向上し、しかも2年間のレメディエーション終了後、この教室を離れても、読み書き能力の向上は続くとのこと。

つまり、もじこ塾中学生クラスは、できれば週3回だと、理想のレメディエーションに一層近づくということですね・・・でもそこまで英語に割ける生徒はなかなかいないわけで・・・
5時間分をカバーする方法を考えてみたいです。その上で、2年間で卒業を目指せれば、理想的ですよね。

~~~  

その他:
visual lexicon(まるっとスペルを覚える単語の量)には限界がある
文章を丸暗記するのは、長期的には逆効果。音と文字の対応(フォニックス)を教える必要がある。
→日本の定期テスト対策で陥りがちですね。
・レターボックスに入る単語は、文字列の並びは順不同。(sawwasは区別されない)
サイトワードを初期に教えすぎると、脳内の音-文字の結びつきが弱くなり、字の入れ替わりが起こりやすくなる
→単語の丸暗記も有害だということですね。「まるっと覚えられる単語の量には限りがある」と合わせて、丸暗記の害は肝に銘じたいです。
・精度なくしてスピードはない(正確性が向上しなければ、関心がある内容しか読めない)
・音韻認識の訓練は、2年間のレメディエーションを通じて行う。はじめは明示的に、2年目は他のアクティビティに混ぜ込んで。


~~
バスは予定よりも早く目的地に到着しそうなので、取り急ぎアップします。
明日からは通常授業。まだ報告は続きます!

2018-10-28

IDA日記その1:音韻認識の熱狂に釘を刺される/筆記体の本の版元社長に直談判


ボストンからバスで2時間のカジノリゾートで、今年のIDAは開催されました。
ボストンは車越しの夜景だけでも素敵でした☆。でも夜明け前のバスターミナルあたりから素敵じゃない雰囲気に・・・そして予想通り、カジノリゾートの周辺は見事に何もありません。360度原野、ニューイングランドの秋の紅葉です。
カジノリゾートの中は退廃的な雰囲気です。妙にぎらぎらした老人とか、地味~な中国人夫婦とか、平日の昼間からなぜこんなところに?と言いたくなるあやしい人たちがうろうろしてます・・・

そんな会場の一角で開催されているIDA。こちらは見事に白人女性が95%を占めてます。会場の挙手を見ると、教師、ディスレクシア専用チューター[個別指導教師]、アドミニストレーター[行政担当者]が多いです。
参加者は2000人と昨年並より少し少なく、半分が初参加とのこと。
雰囲気はLD学会に近いです。教師の出すオーラって万国共通なんですね()

・どうやら、去年のレターボックスの講演はIDA的にもよほど衝撃だったらしく、今年の発表で去年のその発表に言及しているケースに2件遭遇しました。たぶんみなさん、私と同じように、この1年間はあの講演を宿題として持ち帰っていたわけですね・・・
残念ながら、今年のIDAの発表は、これまでのところ、去年ほどの根底的な衝撃はありません。もっと細かい、具体的な話で収穫が多いです。

◆音韻認識について
・読めるようになるためは、まず音韻認識(phonological awareness, phonemic awarenessなど、いくつかの言い方あり)の訓練を徹底すること、その上でフォニックス(音と文字の対応)を教えるべき・・・が、この12年で業界の共通認識になったようです。
Phonemic awarenessについての新刊も出ていましたし、教材も新しく出ていたので買ってみました。中1クラスで試してみたいです。

ガチャガチャのおまけみたいなものが、多感覚らしいです

音韻認識とは、「単語がいくつの音韻でできているかを、認識する能力」です。
たとえば、sat3つ、step4つ、star3(ar1つと数えるので)
shark3(shark)this3(this)third3つ、
there2つ、rain3つ、candyは5つの音韻からなります。

日本人からすると、「そこって1つにまとめるの?」という反論も出てきますね・・・
その通り。どの音をもって音韻とみなすかは言語によって異なるので、すでに別の音韻体系が確立している場合は、ある程度理詰めで理解する必要もあります。
音韻は人工的な概念なのです。

不思議なことに、定型だと45歳で母語の音韻認識は獲得されています
(stop4つのオトでできていて、t2番目だね!」と言えます)
一方、ディスレクシア(の多く)は音韻認識の発達が遅れますし、程度の差はありますが長期的・定期的・反復的・明示的な訓練をしないと定着しません(ひらたく言えば、毎日510分、訓練が必要です)

グッドニュースは、音韻認識の定着は、年齢が上がるにつれ短期間で定着する傾向が強いということです。
もじこ塾で見る限り、中学生は小学校低学年よりも音韻認識の定着は早いです。
また、音韻認識が定着するまで足踏みする必要はなくて、文法など先に進みながら音韻認識定着の練習を続けることもできます。このことに言及している発表もいくつかありました。


◆ディスレクシアの原因は音韻だけではない
筑波大の宇野先生とワイデル先生がシンポジウムを行ったので、最後だけですが顔を出しました。両先生と直接お話できる役得に預かりました(^^)。地球の裏側のカジノリゾートまで足を運んだかいがあったというもの。

宇野先生からは釘を刺されました。今の私にはとてもありがたかったです。

「アジア系言語のディスレクシアの出方は英語圏とは異なる。
IDAではディスレクシアはもっぱら音韻処理の障害とされているが、日本語ディスレクシアを見ればそうでないことは明らか。
音韻障害だけが原因のことは少なく、視覚認知障害、自動化の障害、それ以上にこれらの混合型が60%を占める。
そのことを英語圏のディスレクシア研究者はわかっていない」。

・・・本当にその通りです。
日本語のディスレクシア、特に漢字が覚えられないのは、形の認識の困難によるものです。ディスレクシア英語教育に意識が向きすぎて、ついそのことを忘れがちになっていました。
日本語(特に漢字の困難)からディスレクシア教育に入ると、ディスレクシアは主に字の形をめぐる困難ですが、英語からディスレクシア教育に入ると、ディスレクシアは音韻を認識し処理することの困難だと分かります。
日本のディスレクシアの生徒はほとんどの場合、この2種類の異なる困難に直面していて、その両方に対処しなくてはならない大変さがあります。


◆筆記体の本の版元社長に直談判
・筆記体の練習帳には本当に感動したので、お礼が言いたくて版元の社長さんの発表を聞きに行き、発表後、話をすることができました。
生徒の字をいくつか見せると、たいそう感動してくれました(TT)
「遠い日本の地でこの本がこんなに愛されていると知ったら、著者はきっと喜んだだろう。彼女は外国語として英語を学ぶ生徒のことを、とりわけ気にかけていたから」。






著者とは故Diana Hanbury King女史、ディスレクシア教育界のレジェンドのこと。
もう一年早かったら直接お礼が言えたのに、本当に残念でした。

「この本はすばらしいです!すごく効果があります。日本には同じものが本当にありません。わたし訳しますけど、日本で出版しませんか?」
と言ってみたところ、マシンガントークで
「超いいね!!僕はADDだから忘れちゃうんで、帰国後ここにメールしてくれるかな、Let’s see what we can do」とあっさりOKしてもらえました!

しかし社長はこっちもADHDだとは理解していない(原稿になかなか取りかかれないorz)

だからここに書いて宣言しておきます。
筆記体の本の日本語版を出すために、版元のOKはもらえました!日本語版を出したい!!

2018-10-23

今年もIDAに行ってきます!

なかなかここに書けず、申し訳ありません。ようやく一息つきました・・・。

昨年のIDAに行って以来、この1年のもじこ塾は、現地で聞いたことを思い出し、試しては微調整する・・・を繰り返しながら、変化を続けてきました。

現在、中学生の授業では、
・シンセティック・フォニックス
・筆記体
・音読
・ゲームによる息抜き
・文法演習
を扱っています。
1年前と比べたら、だいぶ変わりましたし、盛りだくさんになりました。

大学受験生のなかにも、高校や予備校とはかなり異なる授業を行っている生徒が何人かいます。
読む量を極限的に減らして解く方法を模索したり、徹底的な読字訓練を行ったり・・・

これらのほとんどは、日本ではどこに行っても勧められない、または、ディスレクシアに効果的と言われていても、具体的な効果や方法のわからないものでした。

例えば筆記体。
これは去年のIDAの、空き時間になんとなく聞いた発表で知り、その場では眉唾ものだ思ったのに、今ではもじこ塾の中学生にとって不可欠の教材となりました。
筆記体で書くことではじめて単語のスペルが覚えられた生徒もいますし、
PCでないと板書は無理と語るほど激しい書字困難にもかかわらず、筆記体の練習を始めると、「書けるようになると読めるようになった」と言う生徒もいます。



あるいは音読。
「フォニックスの次にすべきことは流暢性の獲得。そのためには時間を測って初見の文を読む練習を」という指摘を守って、中学生さらには一部の受験生にも、目の前で音読してもらっています。
これは、生徒によってはどろどろに疲れる厳しい課題で、生徒の疲れ具合を注意深く見極める必要があり、信頼関係がないと課せないものですが、今やこれも、もじこ塾に不可欠な訓練になりました。



このように、IDAの会場でなんとなく聞いたことが、ボディーブローのように効いてくる経験をして、やはり今年もアメリカまで行かないわけにはいかない、たとえ秋の受験生の授業を一週間休み(申し訳ありません)、自腹であっても( ;∀;)と思うようになりました。

もじこ塾でも最もディスレクシア度の強い部類の生徒たちは、もじこ塾の授業の効果や感想を、とても率直に教えてくれます。
「学年が上がるにつれて、追試にひっかからなくなった」
「教科書をはじめて読めた」
「フォニックスを教わった帰り道、街中の看板という看板から音が聞こえてきた」
「家族でよく行くレストランの名前が読めた」
「クラスで一人だけ答えられる問題があった」
「sinの筆記体が読めた」などなど・・・

そういった感想からこの方向性でおそらくいいのだと思う反面、常に授業に微調整を加え、進化させていく必要も日々感じています。
生徒は進化するのに同じ授業をしていたら、あっという間に効果が薄れてしまいます。

というわけで、いま私はボストン行きの飛行機の搭乗口でこれを書いています。
今年の会場はボストンから100マイル離れた、コネチカット州のネイティブアメリカンの土地にあるカジノリゾート(?!)。
去年のアトランタよりもたどりつくのがある意味困難かも(;'∀')。

今年はどんな話が聞けるのか、楽しみです!!乞うご期待!

2018-06-16

もじこ塾へのお問い合わせにつきまして

朝日新聞をご覧になって,当ブログにお越し下さった皆様へ

もじこ塾に関心を持って下さり,ありがとうございます。

もじこ塾はディスレクシア専用の英語塾です。

お問い合わせは以下にお願いします:
mojikojuku@gmail.com

もじこ塾には,電話,Twitter,Facebookはありません。

どうぞよろしくお願い申し上げます。

2018年6月16日
もじこ(成田 あゆみ)

[18/06/17追記]
多数のお問合せをいただき,ありがとうございます。

もじこ塾はブログから始まった塾です。
かなりの数の記事がありますが,ディスレクシアともじこ塾について知って頂くには,最新の記事10本ほどを読んでいただくとともに,以下をお読みいただけますと幸いです。

募集案内

お子さんがディスレクシアかどうか,判断するために
ディスレクシアのチェックテスト→
隠れディスレクシア→
ディスレクシアであることの利点→

より専門的な内容
LD学会での発表内容→
IDA(国際ディスレクシア協会)年次総会レポート→

授業について
日々の授業の様子はこちら→で毎日お知らせしています。
記事の写真はこの授業→のディクテーションのものです。

順次お返事してまいります。どうぞよろしくお願い申し上げます。

2018-06-15

もじこ塾についての記事が朝日新聞に掲載されます。

いつも当ブログをご覧下さっている皆さまへ。

いつも当ブログにお越し下さっている皆さま,ありがとうございます。

もじこ塾は先日,朝日新聞の取材を受けました。
明日(6/16)の東京版朝刊,教育面「凹凸の輝く教育」という連載に登場します。

追記
記事はこちら→
(朝日新聞デジタル)



連載の目的は,特性のある子どもたちに特化した教育を行う各種教育機関を紹介すること。
と同時に,今回の記事の目的は,ディスレクシアについて広く世に知ってもらうことだと聞いています。

4月以来,この連載には,N高や東大先端研ROCKET,都立高校や通信制高校,大手塾など,この界隈での有名どころや,スタッフのたくさんいる塾や学校が登場しています。

そのようなそうそうたるラインナップに,講師ひとりの個人塾が加わるわけですが・・・
率直に申して,これからどのような反響がどれくらいあるのか,想像もつきません。

今回,取材要請を受けるべきか,かなり悩みました。もじこ塾のような一介の個人塾が朝日新聞に登場した場合,反響に対処できるのかどうか,まったく見当がつかないのが正直なところです。
問い合わせが殺到して,授業運営に支障が出るのではないか・・・
「ディスレクシアで大学受験するなんてありえない」と炎上するかも・・・
あるいは,すべては取り越し苦労かもしれません・・・
予備校講師歴20年,ネットでいろいろ言われた経験も普通の人よりはある方だと思いますが,今回ばかりはどんな反応があるのか,予想がつきません。

取材を受けるよう後押ししてくれたのは生徒たちです。ほとんどの生徒は紙面登場を喜び,もじこ塾のような場がもっと増えるべきだ,学校での英語の授業方法には不満があると言い,具体的な改善点を挙げてくれました。
ういった声を記者に伝え,学校の先生方に少しでもディスレクシアの認知度が高まればと思い,取材要請を受けることにいたしました。



今日も,もじこ塾では授業を行いました。
教室のなかは台風の目の中のように,何ひとつ変わりません。
ここには本当に得難い,信頼関係に基づく授業空間があると思っています。

この環境が今後も維持されることが,そして,学校でも,ディスレクシアについて知っている教師が増えることが,もじこ塾と生徒たちの願いです。

2018-05-18

合格体験記(3)「ディスレクシアの勉強法に"共通解"は存在しない」

合格体験記の3人目は、合理的配慮を受けて受験し,某国立大学に合格した生徒です。
センター、2次試験、私大で配慮を受けています。

この生徒からは、当ブログのコメント欄への書き込みを通じて、初めて連絡を受けました→
浪人が決まった3月末から授業を開始しました。

彼は優雅でストイックな修行僧。ゆったり、ふんわりと構えているのですが、芯がめちゃくちゃ強い。内に秘めたストイックさたるや,普通では考えられないレベルです。
「他人がどう思うか」とか「世間的評価」などというものを、完全に超越しています。
行動基準の軸が明確にあって,その一つは「美しいかどうか」 に見えます。自覚がないと言っていますが…

また、「自分には自由が必要」「こうしろと決めつけられると逆の方向に行ってしまう」と語る通り,ものすごく精神的に自立してます。
私と彼が話しているところを見た別の生徒が「先生のほうが生徒で,生徒が先生みたい」と言っていました。そうかもしれません。

ディスレクシアとしては、正確だが想起が遅いタイプです。
授業中も、こちらが言ったことを自分の中に落とし込むのに、2~3秒の間が必要でした。

理系科目は得意で、現役時点でまずまず戦える実力を持っていました。「物理では、動きを想像すればどうなるか、だいたい予想がついた。それにあわせて式を書いていった」
ディスレクシア的な得意さとしては,こうしたシミュレーション能力、空間把握能力、そして戦略的思考がずば抜けています。

自由な校風の一貫校卒。ディスレクシアに気付いたのが現役のセンター試験受験直後のため,高校では一切配慮は受けていません。

いま改めて読むと,最初のコメント→と私の返事は暗示的です。
彼は本当に波乱が多いといいますか…同じ出来事でも彼にかかると,なぜかドラマチックになります。
まるで彼の周囲の磁場がゆがんでいて,半径1m以内に入ると物事が劇的化するような(笑)
#あるいは、「不注意傾向」を美しく言い換えると、こうなるのかも?

ここには書けないような劇的な半生、そして劇的な逆転合格でした。その精神力の強さには感服するしかありません。

それではどうぞ:


☆   ☆   ☆


ディスレクシアなどの発達障害を抱えている私にとって、大学受験には困難が沢山ありました。
そのような困難の種類や程度は本当に人それぞれで、発達障害を抱えている方の中にはむしろ、大学受験などでは筆記試験が向いている方もいるかと思います。

ディスレクシアにはこの勉強法が適している、英語長文はこう読むといい、というようなディスレクシアの方々における共通解というものはほとんど存在しないと考えています。
難しいことではあると思いますが、最も重要であることは自分の特性を理解し、その特性に合った勉強法や受験方式を探ることだと思います。
この作業は経験則と推論から行うものであり、特に経験則については検証実験を繰り返すことによって確立していくので、大変時間がかかります。

ここからはそんな多種多様な特性のうち、たったひとつの事例として私の経験談を受け止めていただければと思います。

(※ この合格体験記を依頼したとき「自分の事例は自分にしか当てはまらないから」と断るのを,「それでかまわない。「『ディスレクシアに適した一つの学習法はない』というのがこの一年で分かったことだった,というのも十分に発見なんだから」と説得して,この文章を書いてもらっています。)

◆勉強法について
  まず勉強法についてですが、私の場合、自分の特性に合っていると思われる今の勉強法にたどり着けたのは勉強法を探り出してから1年程経過してからでした。
そもそも自分に特性があるとはっきり理解していなかったために私は世間で広く言われる勉強法の中にこそ自分に合った勉強法がある確率が高いと考え、板書型の授業を集中してもれなく書き写すことや、わかりやすいと評判の大手予備校人気講師の授業を受けるなどをしてきました。
当時の私の感覚を正直に表現するならば、板書を一生懸命写す授業に関しては写すことと理解することを同時に行うことが難しいからとりあえず写しておいて後で理解しよう、人気講師の授業についてはなぜ人気なのかよくわからないといったところでした。

このような疑問を抱えながらも、世間で言われる有効な学習法が自分だけ当てはまらないなんてことはないだろうという思い込みのために、私は1年間この方法を採用し続けました。

この勉強法が自分には向いていないと気づく転機となったのは、教科書で独学した部分の内容だけ圧倒的に理解そして応用が可能であったことからです。
そして他の科目も教科書を読んでみたところ、これは授業の100倍わかりやすい!と感銘を受けたのです。
(※このあたりのことは,現役時のコメントに詳しいです→ 
彼は「歌詞が聞き取れない。人間という楽器が鳴っているように聞こえる」と言っていたことがあり、おそらく音韻認識が遅い(音声言語を聞いて、何と言っているか理解するのに少し時間がかかる)と思われます。だから講義形式の授業についていけなかったのでしょう。「1.5時間分の板書をとったら、それを解読して理解するのに同じだけ時間がかかる」とも言っていました。 
自分のスタイルや好みが非常に明確な彼も、なぜか勉強法に関しては、当初は「他人が良いと言う方法」に従っていました。彼の浪人生活は,そこから「自分の直観に従った学習法」へとどんどん移行していく一年でした。その皮切りに,彼は業界慣行的には考えられない道を選びます・・・)
直後に始まった浪人生活では、この方法を実行するために宅浪(有料自習室通い)を選択しました。(英語についてはもじこ塾で個別指導を受けはじめました)

宅浪の最大の利点は、全て自分のペースで進められることでした。私にとってはまさにこれが重要であり、この自分のペースというものが世間一般とはどのくらい違うのかわかりやすい例を示しますと、浪人1年間で使用した参考書は各科目それぞれ基本的内容の12冊ぐらいであったことが言えると思います。
読むのや理解するのはとても遅いのですが、読んだ内容は比較的深く理解することと応用することができたので、一冊をじっくり読み込むことに重点を置きました。
(※「自習室でじ~っくり参考書を読む」という学習スタイルは本当に驚きでしたが,『参考書を読んだほうが圧倒的にわかりやすい』と言われれば納得でした。そして確かにその方法で理系科目の成績は上がり,最終的にはオープン模試でA判定を出しました。英語と国語は最後まで苦手でした。) 
(※彼の学習スタイルは,「ディスレクシアでも,読むことが一番理解しやすいケースもある」ことを示しています。) 
(※彼はずっと「暗記ができない」と訴えていました。単語の意味を教えてあげると、メモしながら「でも明日には忘れちゃうんですよね」。合格後に聞いた話では、物理や化学は「読んだ端から忘れていく。参考書を三周してようやく人の半分覚えられるんですよ」でも、人の何倍もかかるというなら、覚悟を決めてやるしかないということを、私は彼から学びました。人の10倍かかるというなら,10倍やるしかない何もしなければゼロなのだから・・・
と合格後に話したところ、「でもその部分はくやしいのであまり表に出したくない」と言っていました(苦笑)。ディスレクシアだとルールのキワキワの所を狙っていく面があるので、泥臭い部分は前面に出したくないようです。)

また集団授業は提示された目の前の課題に対しての解説をすることが基本ですが、私はもそもその問題がその科目の中でどういう立ち位置の問題なのか、どのような意味を持った問題なのか、そこを把握しないと先に進めず解き方の解説などは頭に入って来ませんでした。(どういう立ち位置の問題なのかというのは、その問題が他の似た問題とどういう関係にあるのかといったことです)
(※ピノコが同じことを言ってます!全体像を把握することが必要なんですね。) 
しかし独学だとこの点参考書のページを前に戻って前問を確認するなどして今解こうとしている問題の立ち位置や意義を理解することができますし、そもそも板書が全て綺麗に取ってあるものが参考書ですから板書をノートに書き写すだけの時間を省くことができました。


このような勉強法探しがむやみやたらに勉強することよりもずっと大切なことだと伝えるために、あるひとつの目安として私の模試の結果をお伝えしたいと思います。
そもそも進学校に通っていたわけではないこともありますが、私の高校3年時の大手予備校の平均的なレベルの模試の英語の偏差値は29でした。
ただ予備校に通っていただけではできなかったであろう合格は、自分に合った勉強法を見つけられた結果だと思っています。
(予備校に通うことが悪いというわけではありません。もちろん、予備校のわかりやすい授業を取ることが合っている人もいると思います、ただ僕の場合は違ったということです)
(※合格後にこの数字を見せられて,愕然としました。そこまで変わるとは。彼の場合,勉強したいという思いがものすごく強い(研究者志望),かつ,ミスマッチの勉強方法を続けて来た,という部分が大きいと思います。そう簡単にまねできるものではありません。
とはいえ・・・もじこ塾に来る生徒のなかには,本当に自分を追い込んで努力する一派がいます。そういう人たちには,上の話は「努力は正しい方向性で行うことが大切」というメッセージになっていると思います。)

◆受験方式について(マーク式か,記述式か)
  次に受験方式について、これもまた世間一般の感覚が自分には当てはまらなかったというのが受験後に気がついた点です。

模試にはマーク模試(センター試験型)と記述模試がありますが、私はマーク模試が苦手で記述模試の方が比較的得意でした。

予備校としては同じ学力の人間が同じ科目で受ければどちらも同じような判定結果になると想定しているためか、マーク形式の試験の判定を記述模試で出したりしています。
(※マーク模試でも国立大の判定を出すし、記述模試でも私大の判定を出す、ということです)

しかし私のようなマークか記述かで得意不得意がはっきりと分かれている人間にとってそれは成立せず、結果的に言えば記述模試でA判定であろうとマーク形式の私立大学は全て不合格となりました。

逆に第一志望の国立大学はセンターボーダーラインのー11%で出願し、もちろんセンターリサーチはE判定でしたが2次試験が記述式であったために逆転合格することができました。(入学後、自分よりセンターの低い人には未だ出会っていません、、)

このように特性のある自分にとっては予備校が発表する入試偏差値というものよりも、むしろ入試形式の方が結果を左右することとなりました。
つまり志望校を選択する時点で自分の特性に合った入試形式を考慮する必要があったのです。
(※私大全落ちで国立に臨むことになったときは、なんと声をかけようかと。。本当に崖っぷちからの逆転合格でした。ただし、ディスレクシアにおいては、進学先以外は全落ちというケースは決して珍しくありません。) 
(記述型とマーク式でこんなにも点数に差が出る理由としては:選択式問題は各選択肢の差が微妙すぎて,ざっくり読んでいるディスレクシアには違いが分からない,誘導に乗るタイプの問題で誘導に乗れない,1つの単語を聞くような問題は苦手,問題用紙の字が小さくつまっていて読みにくい…などの理由が考えられます。) 

◆もじこ塾について
最後にもじこ塾の活用方法についてです。
私がもじこ塾に通っていた意義としては正直英語学習という側面は半分程度であり、残りの半分は自分の特性理解やそれに対応した長文の読み方やセンター試験形式の解き方を探ることでした。
しかし既に述べたようにこの後者の役割はとても大きく、特性を理解した上で解決策を提案してもらうことは、自分に合った解き方を見つけるキッカケとなりました
もちろん特性は多種多様で一発で解決策が分かるわけではないですが、自分に合った勉強法を探すのに1年間予備校の集団授業を受けてみたというような時間的ロスを省くことが出来たということです。
また、段落の頭で"活用方法"と書いたのには意味があり、常に自分が主体的で先生とはコンサルティング契約を結んで情報提供を受けているという意識でいることが重要であると思っているからです。
何故その意識が重要だと思っているかは説明できません。ただ直感的にその方が有効であると思うのです。


(※ちょっと待った、これじゃ私が英語を大して教えてないみたいじゃない(笑)こちらとしては、彼に限っては、絶対よそではできないことをしている自負があったので、以下書いておきます。 
彼とは"感想戦"を徹底的に行いました。まず時間をはかって(20分~45分),1本長文問題を目の前で解いてもらいます。黙読する様子をつぶさに観察し,何を考えているのか想像します。 
その後,解答の添削をしながら討論。どのセンテンスを読むことにしたか,それはなぜか,どんな内容を読み取れたか,次に生かせる教訓は何か・・・ということを議論します。ここでのポイントは困難を言語化すること。彼が思考のプロセスを訴え、私が対処方法を提案し,それを採用するかどうかは彼が決める、というスタイルが多かったと思います。特性の話、志望校決め、求められれば何でも徹底討論しました。・・・あっ、これがコンサルティングですね?!)
(※もう一つ、もじこ塾では合理的配慮申請のお手伝いを行いました。彼がすごいのは、区の支援センターに問い合わせ、病院に行き、診断書を依頼し、大学入試センターに連絡し、いくつかの大学に問い合わせ、必要な書類を作成し・・・という膨大な作業を、すべて自分でこなしたこと。こんなところにも、彼の並々ならぬ意志力が現れています。 
夏に診断書が出て,秋には大学入試センターから配慮申請が通ったとの連絡が来て・・・二次試験で時間延長を受けられる確約はなかったものの,前進があるたびに,時間延長の合理的配慮をイメージした対策を深めていきました(最終的にこの確約が来たのは二次出願の直前でした)。夏から秋にかけては模試でもまだ結果が伴っておらず、微熱が続き体調もいまいちで、精神的に苦しい時期でした。それでも彼は一切ぶれることがありませんでした。) 
(※合格後、「自分のことは自分が一番よくわかるという自信というかわがままな部分と、これで正しいのかという不安がある」と言っていました。)

☆  ☆  ☆

彼のようにストイックで精神的に自立した生徒から、唯一の塾に選んでもらえたことを、もじこ塾は誇りに思います(泣き笑い)。

彼は、今後のもじこ塾の方向性について、重要な示唆を与えてくれました。
もじこのディスレクシア・ジャーニーの目標は、「社会変革」です。これは最初からずっとそうです。ディスレクシアという人種が存在することを,まずは教育現場の人に,知ってもらいたいと思っています。
でもそのための活動は、あくまでも美しくあるべきだと、私は彼から教えられました。
美しくない社会変革運動は、何より当事者のためにならないのだと。
美しいとはどういうことか・・・これを言語化するのはもう少し時間かかかりそうですが,彼は私の中に直観的な評価軸を残していきました。
きっとこれからのもじこ塾は,この「美しいかどうか」を基準に,進むべき方向性を決めていくことでしょう。

もう一つは、「ディスレクシア英語教育の最適解はない。でも,教える側は手札をたくさん持っている必要があり、知識と観察力と対応力が試される」という、教師力の課題です。

もじこ塾はより一層ディスレクシア塾となり、新しい生徒たちのために、教師力にさらに磨きをかけてまいります。
そして、定型の人が入りたいとうらやむような美しい塾(笑)へと、進化していく所存です。

2018-05-05

授業日誌のブログを始めました。

ひっそりと新たなブログをはじめました。
もじこ塾授業日誌→
なんと!いまのところ毎日更新中!助手と生徒のおかげです^^





2020年,ディスレクシア英語教育界隈は,非常に忙しくなることが目に見えています。

というのも,この年は大学入試も変わりますが,それだけでなく,小3から英語が必修化,小5から教科化されるからです。

英語が教科化された日には,文字指導が当然入ってきます。
そうなれば,クラスの2~3割の子から

「会話は大丈夫だったのに,文字が出て来た瞬間に英語が大嫌いに」
「何十回,何百回と書いてもスペルを覚えられない」
「クラスのみんながどうして読めるのか,理解できない」

という悲鳴が上がり,教室は大混乱に陥ることでしょう。
当ブログでも繰り返し言っている通り,ディスレクシアは日本語よりも英語に,はるかに出やすいのです。

そのときに

「それはディスレクシアなんだよ。
あせらず落ち着いて,英語の最初の一歩はこうするといいんだよ」

という具体的な教え方を示したい,
できれば大学受験までの道筋を示したい・・・
というのが,当ブログの切なる願いです。

そのための具体的な方策を発信していこうというのが,授業日誌ブログの目的です。

どうぞよろしくお願い申し上げます。

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