ディスレクシア専用英語塾「もじこ塾」のブログです。 ●ディスレクシアとは:知能は普通だが、読み書きが苦手(読み間違いが多い、読むのが遅い、書き間違いが多い、読むと疲れやすい)という脳の特性 ●全体像の把握、物事の関係性・ストーリーの把握、空間把握、ifを考えるシミュレーション能力に長ける ●読み書きの困難は、日本語より英語に出やすい ●適切に対処すれば、読みの問題は表面上は克服される ●10人に1人程度いるというのが通説 ●家族性とされるが、ディスレクシアの表れ方は個人差が大きい もじこ塾は、ディスレクシアはこれからの社会に不可欠な才能、でも日々の学習では普通と違うアプローチが必要、という立場です。

2024-09-29

大学生は、どのような英語の合理的配慮を受けているか?

うちの子もディスレクシアです。もちろん推薦入試を考えていますが、大学入学後、英語ができずに留年、中退が不安です。もじこ塾出身の生徒さんは、大学入学後どうされていますか。


というご質問を頂きました→。ありがとうございます。
以下、長くなりましたので、こちらにお答えします:

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1 ツールを使えば乗り切れる。
2 配慮を受けて乗り切る。
3 自分のレベルにあったクラスを履修。
4 英語の単位がとれない可能性を考えて、志望大学を変えた。
5 英語検定のスコアが卒業要件になっていないか、要チェック
おまけ
 就活も大変・・・でもそこは、みんなも同じなので、がんばってほしい
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1 ツールを使えば乗り切れる。

ツールがあるので配慮は不要、と語る一派がいます。
大学ではパソコン使用が当たり前だし、ChatGPTやDeepLを使えば英語の課題は問題なくこなせる、周りも同じようにして課題をこなしている、と言います。
素で(=ツールなしで)英語を読むことを完全放棄して、ツールありきの英語力を追求している学生もいます。

この方法のポイントは、周囲も同じツールを使っているという点だと思います。
ツールを各自が必要に応じて使いこなしています。

この方法をとれるのは、それなりに英語力のある人たちです。
また、モチベーションの強さ、英語を使いこなす自分をイメージできる力が必要です。


2 配慮を受けて乗り切る。

配慮を受けている学生のほうが、おそらく多いです。
英語に関する具体的な配慮内容としては、授業での配付資料を授業前にもらっている、英語の試験をレポートに変えてもらった、提出期限を延長してもらった、英語の単位を他の科目に変えてもらった、などがあります。
英語を回避して大学に入った場合、こうした乗り切り方をすることが多いと思います。


ちなみに、大学入学後の配慮に関しては総じて、この数年でほとんどの大学でかなり制度が整った印象です。
また、大学生の配慮は、本人と支援室がまず話し合い、それから支援室がコーディネートして本人が担当教授に話しに行く・・・という形が多いように思います。
親の出る幕は基本的にはありません。



3 自分のレベルにあったクラスを履修。

「英語は基礎クラスだったので、大丈夫だった」と話す学生もかなりいます。
質問を頂いた元記事→の学生も、その一人です。

多くの大学で、英語はレベル分けがされています。
入学時に行われるクラス分けテストで、無理せず低い点数をとって・・・
(笑、でも、それまでテストというものは常に全力を振り絞って受けることを要求されてきた生徒たちにとって、「下のレベルに入れるよう、気合いを入れずにテストを受けましょう」というアドバイスは、かなり新鮮なようです)、
・・・それで下のクラスに入り、着実に単位を取るというのは、正しい戦略です。


4 英語の単位がとれない可能性を考えて、志望大学を変えた。

一方、英語の読めなさがきわめて重篤な生徒の中には、英語の単位取得に求められるレベルを考慮して、大学選びから考え直した生徒もいます。

ある生徒は、高倍率を突破して某大学の高大接続プログラムに参加し、良い内容のレポートも書き、そのまま総合型選抜で合格できそうでした。
しかし、その大学に在学中のもじこ塾の先輩から「その英語のできなさだと、入学できても卒業できないかも」と指摘され、志望を変えました。
結局この生徒は、まったく違う専攻に(公募推薦で)進みました。

学部によっても、求められる英語力は大幅に異なります。
ものすごく英語が苦手なら、英語力があまり必要とされない学部を選ぶのも一案です。


5 英語検定のスコアが卒業要件になっていないか、要チェック

英語の単位はどうにかなっても、TOEICなどの資格試験で点数を取るのには、ディスレクシアはたいへん苦労します。
入った大学が実は卒業要件にTOEIC 600点などのスコアを課していたため非常に苦労した・・・といった事例が、これまで何件かありました。
読めなさが重度の場合、TOEICスコアなどが卒業要件になっていないかどうかは、入学前に確認したほうがよさそうです。

英語の各種検定試験にも、合理的配慮は存在します(学習相談→の枠で対応できますので、ご希望者はお知らせください)。
それでも、とても大変です。
大学生活のすべてをTOEIC対策に捧げて、うつになりかけながら卒業要件に必要なスコアを超えた学生もいましたし、
鉛筆転がしレベルのTOEICのスコアと、銀河点レベルの専門科目の点数を取って、大学院進学を果たした学生もいます。

なお、ディスレクシアには、TOEICやTOEFLよりも、IELTSが比較的取り組みやすい気がします。


6 就活も大変・・・でもそこは、みんなも同じなので、がんばってほしい

就活も大変です。でも、これはディスレクシアでなくても、大変だと思います。
特性と自分をしっかり見つめて、悩みながらがんばってほしいです。
ちなみに、これまでもじこ塾の卒業生で助手となった人は、基本的には一般の学生と同じように就職や進学をしています。(追記:と書いた後で改めて考えるに、ディスレクシアの就活はなかなか大変そうです。またその後も苦労は続くようです。でもやはり、就職後の生活にまったく苦労のない人なんていないので、「みんなも同じなのでがんばってほしい」という結論は変わらないのですが)

もちろん、上にはおさまりきらないような激しい事例も色々ありますが、まずは、概論としてお読み頂けますと幸いです。

最後に、、ディスレクシアが正しく勉強するための三本柱は訓練・配慮・ツールで、その土台にポジティブ寄りかつ現実的な特性理解があると思います。上のお答えはこのうち、配慮とツールについてお答えしました。配慮だけ、ツールだけ、ではなく、全部を利用する、そして学期ごとに微調整を続けていく、というイメージです。