ディスレクシア専用英語塾「もじこ塾」のブログです。 ●ディスレクシアとは:知能は普通だが、読み書きが苦手(読み間違いが多い、読むのが遅い、書き間違いが多い、読むと疲れやすい)という脳の特性 ●全体像の把握、物事の関係性・ストーリーの把握、空間把握、ifを考えるシミュレーション能力に長ける ●読み書きの困難は、日本語より英語に出やすい ●適切に対処すれば、読みの問題は表面上は克服される ●10人に1人程度いるというのが通説 ●家族性とされるが、ディスレクシアの表れ方は個人差が大きい もじこ塾は、ディスレクシアはこれからの社会に不可欠な才能、でも日々の学習では普通と違うアプローチが必要、という立場です。

2017-12-23

もじこ塾だより(6)~ディスレクシアに筆記体を教える効果について~

斜めの姿勢は,きちんとした教育を受けている証拠なんですよ(笑)!
アトランタ後,もじこ塾では,中学生に筆記体の練習を始めました。

アトランタで買ってきた,オートン・ギリンガム(=ディスレクシア用)の筆記体練習帳を使っています。

この効果は,どうやら相当に高いです(*^_^*)

右利き用と,左利き用(゚∀゚)があります!

この本の著者は,後から知りましたが,こちらに登場するディスレクシア教育界のレジェンドのお方。ですので,この本も本当にディスレクシア・フレンドリーです。
・単純な形から複雑な形に(abc順ではなく),
・フォニックス読みできる単語だけを使用,
・余計なことをごちゃごちゃ書かないシンプルな紙面,
・単純明快な指示,
・・・など,ディスレクシアにとって取り組みやすい工夫が満載です。
サンプルページ→

この本の前書きに,「ディスレクシアに筆記体を教える利点」がまとめてあるので,訳してみます:

1) 手で覚える:1つの単語をダンスのように,1つの連続した動作で書く。このため,運動としての筆記体での単語の記憶は,スペリングの習得とその記憶保持に役立つ。

2)  左右反転が減る:筆記体の小文字はすべて,ベースラインから始まり,連続した動作で書く。ブロック体のように,1ストロークごとに紙から鉛筆を離すことはしない。

3) 単語のスペースが適切に開く:ディスレクシアの生徒は,単語と単語の間のスペースがうまくとれないことが多いが,筆記体だとこの問題がなくなる。文字と文字をつなげて単語を作るため,単語の終わりと始まりを決めやすくなる。

4) 書くほうが脳に良い:手で書くことは,タイピングよりも多くの認知リソースが刺激される。「子供たちは手で書くことを初めて学んだとき,読むスピードが増す。そればかりか,アイデアを思いつく能力や情報を記憶に保持する能力も,手で書いた場合のほうが高くなる。言い換えると,書く内容だけでなく,どうやって書き留めるかも重要なのだ」(原文出典こちら→)

↑えええ~まじ!!
ディスレクシア用の筆記体の本で,こういう言葉に出会うなんて・・・
このくだりを読んで衝撃を受けたのが,筆記体を教えようと思ったきっかけかもしれません。


すべての字は,ベースラインから始まり,基本的には「スマイル」で終わる。
1つの単語は一筆書きする。
この本は,単純な字形から始まり,だんだん複雑なものに進んでいきます。

左利き用は,文字の傾き方が違います。
ほとんどの生徒は言われるまで,筆記体の文字が傾いていることに気づきません


n,u,tとも,「来た道を帰る」のがポイント。
これが意外なほど難しく,かつ字形を整えるために重要



まるでネイティブのような字!

上と同じ生徒の普段の字

日本の中学ではかなり前から,筆記体は教えていません。なので生徒は筆記体は書けないのはもちろん,筆記体を初めて見たときには「この字は読めない」と言います。
しかしながら,それでもめげずに筆記体を教えると,実に多くの利点が明らかになるようで・・・

現時点では,日本のディスレクシアの子に筆記体を教える利点は,以下だと考えます:

1)リズムとして書字を覚えられる
筆記体はとてもリズミカル。体で拍子をとるように,または音楽の指揮をするように,書いている子もいます。
目や手以上に,ビートを使って?!書くもののようです。
そのことはおそらく,読字能力の根本的なところに良い影響を与えそうです。なにしろ英語はリズムの言語ですから…

2)必ずベースラインから始まるので,混乱が少ない
上にもあるように,すべての字が同じベースポイントから始まるので,混乱が減ります。
現に,「筆記体のほうが書きやすい」と言い始める子も出てきました。

3)左右反転が減る
一筆書きで,左から右に書いていくので,左右反転が起きにくくなります。
またbとd,pとqは筆記体だと形がかなり違います。仮にすべての字を筆記体で書かなくても,これらだけは筆記体風に書くことで,左右反転を防ぐことができます。

4)アルファベットの書き順を改めて知ることで,字形が整う
この効果が,意外と大きいです。
昨日も,dの筆記体を書いたあと,dが入った単語を(ブロック体で)何気なく書いてもらうと,書き順が間違っている(=棒から先に書いている)子がほとんどでした。
「dは筆記体でやったみたいに,〇の部分から書いたほうが,形が整うよ」と言うと,みんなびっくりしていました。今後このように,筆記体の知識を普段の書字に生かす場面が出てきそうです。

#こういうやりとりがあると,ディスレクシアの子も,実はきれいな字を書きたいと切望していることに気づきます。
#その気持ちに応えるには,書き順も明示的に教える必要があるようです。


5)数学の記号(ℓなど)が読めるようになる
生徒のほうから指摘されたポイント。
数学や物理で出てくる記号が読めなかったらしいのですが,筆記体を習いはじめたことで読めるようになったり,類推が効くようになったらしいです。

6)純粋な書字の訓練は,精神統一になる
習字や写経の効果と同じです。お手本を見ながら純粋に字を書く練習をしていると,教室にとてもいい気が流れます。・・・たとえディスレクシアであっても。

7)指に書字用の筋肉がつく
筆記体の練習は,手が疲れるようです。でも,その疲れこそが必要だと感じます。

もじこ塾は中1から浪人生までいるので分かるのですが,
字を書かなさすぎると,18歳になるころには指の筋肉が衰え,ほっそりした力のない指になります。そうなると,書きたくても指が言うことを聞きません。
一方,字をたくさん書いてきた19歳ディスレクシアは,字が汚くてもバリバリ書いていけるだけの筋肉が指についています。
13歳だと,まだそこまで指の筋肉に差はありません。ということは,中学生の時点ではまだ書くことは諦めてはいけないようです。
もちろん,よほどの書字障害などの例外はあるでしょうが。
でも,書字がつらい=書くこと免除!とも,どうやら一概には言えないようで・・・

8)筆記体ができるとカッコいい。筆記体を知っていると自慢できる
これこそが,筆記体を教える最大の利点。
筆記体が読めたり書けたりするのは,とにかくカッコいい! これに尽きます。
「学校の先生が突然,黒板に筆記体を書き始めたんですけど,クラスのなかで自分だけ読めた」
「友だちに『これ書ける?』と聞いてみたけど,自分のほうが上手に書けた」
「英語で名前を書くときは筆記体で書きたい」
・・・という話が生徒の口から出てくるのを聞くと,ディスレクシアの子も切実に,「自分も英語ができる」と言いたいのを感じます。
それを可能にしてくれるのが,筆記体という分野です。

そんな筆記体の練習なども,冬期講習では行います。
残席少しあります。ご興味のある方はぜひどうぞ→

2017-11-13

IDA@アトランタ報告(その4)~スタニスラス・ドゥアンヌ教授講演~




「New Studies on How Literacy Transforms the Brain
(読み能力はいかに脳を変えるか:新しい研究)」

アトランタまで行った最大の目的は,フランスの脳科学者,スタニスラス・ドゥアンヌ教授の講演を聞くことでした。 結論から言うと,(今の私にとって)非常~に驚きの指摘を得ることができました。今日から私の授業はさらに変わります(笑)

この講演は「ノーマン・ガシュウィン・メモリアル・レクチャー」と位置づけられています。ディスレクシア脳研究界の早世したスーパースターを記念し,読みの脳科学の最先端研究を一般人に伝えるのが目的だそうです。
「私たちは先人の肩に乗っている」の言葉とともに,オートンにはじまる過去100年弱のさまざまなディスレクシア研究者や教育者を紹介する映像が流れ,会場の熱気が最高潮に達したところで教授登場。こういう流れを作るのはアメリカ人は本当に上手です。

導入で「"Book"(本),それは非常によくできたツール」と,Macの新製品カンファレンス風?な動画で笑いをとりながら,講演は始まりました。フランス語なまりの強い英語で,画像が満載のスライドをばんばん見せながら,すごいスピードで話は進みます(+_+)

☆    ☆    ☆
「読めるようになると脳は変わる(Reading transforms the brain)。先生たちが子供に働きかけることで,生徒の脳は変わる。今日はそれについて語りたい。」

★ここで言うReadingは,読解力以前の,文字列を読む能力,
おそらくは1つの単語から短い1文を読む能力と思われます。

「話し言葉は努力なしで獲得できるし,脳には話すための専用の部位もある。しかし,読むという行為は後年になって発明されたもの。専用の脳の部位はなく,読字能力は,本来はその目的のためにでなく存在している部位が,リサイクルされて形成される。」

★別の脳科学者から聞いた話では,話す能力は10万年前の人類の祖先から原型がみられる一方,人類が読むようになった歴史はせいぜい56000年。人類はまだ読むための脳の部位を進化させるに至っていないのです。

左脳にあるこの部位を,教授はレターボックス(文字の箱)またはVWFA(Visual Word Form Area:視覚的に単語の形を認識する部位)と呼び,いよいよ本題に入ります。
#ここで改めて注意喚起。
この研究では,「単語あるいは文字列のの認識」を見ていきます。

「レターボックスは69歳の間に完成する。ハイパーレクシアだと5歳にはもうできている。」 
「この時に犠牲になるのは,顔を識別する部位。レターボックスが形成されるのに伴い,右脳に移行する」

★ちょw。顔認識ができないハイパーレクシアだったもじこは,きっとレターボックスができたときに,顔を認識する部位が右脳に形成されなかったんでしょうね。

「ディスレクシアの9歳児にはレターボックスがなく,顔を認識する部位も左脳のまま。だがこれはディスレクシアの結果であり,原因ではない。視覚的な困難はディスレクシアの結果であり,原因ではないことが少なくない。脳の可塑性を考えると,早く正すべきと思うが」

★脳の「可塑性(かそせい)」(plasticity)とは,平たく言えば脳が変われる性質を指します。

 「レターボックスは,形を認識する脳の部位を,読字能力に再利用することで形成される。これを「ニューロ・リサイクリング」(neurorecycling,神経の再利用)と言う」

★ここからは,さらにたくさんの画像を見せながら,話が進みます。
「レターボックスは,どのような過程を経て形成されるのか。就学直後の,読むことを学び始めたばかりの子供は(☆フランスの話です),レターボックスだけでなく,脳のあちこちの部位が,程度の差はあれ,一時的に激しく活性化する。その後落ち着き,2年生の終わりごろには努力なしで読めるようになっている。この頃には,音韻と文字の対応,音韻認識,そして流暢性を獲得している」 
「特に重要なのは自動化(automaticity。読むことが自動化していないと,数の認識や読解など,他のことに脳のリソースを回す余裕ができない」
★生まれた時点では,ヒトの脳は読むための部位を持っていない。就学年齢の頃に,書き言葉という刺激を与えると,文字に対して脳のあちこちが反応する時期を経て,2年ほどでレターボックスだけが活性化するような脳へと変化を遂げている。
以降は,読むという作業は自動化され,とても楽になる(少なくとも定型の場合は)・・・という流れです。
この「自動化」という概念が,このあと重要になってきます。

「レターボックスは,脳の可塑性の高い部位に発生し,そこに定着する。読字能力を鍛えない場合,レターボックスができるはずだった場所には,他の視覚認知(道具,家,顔など)が進出する。大人の場合は可塑性が低下し,子供の脳よりも固まっているので,脳を変えるのは難しい。例えば,2年にわたる読み訓練をしても,文字列の認識に努力を要する,つまり自動化に至らない」

★音楽家や数学者,さらには脳卒中でレターボックスの部位がやられた人の脳画像を見せながら,音楽家は楽譜を,数学者は数式を「かたち」として認識する力が高く,レターボックスをおいやっていることを,笑い話として紹介していました。あちらを立てればこちらが立たず” 的な。

★だんだん時間がなくなり,話がものすごく速くなって,メモも切れ切れに。

「音韻に関係する部位はレターボックスとは別にある。レターボックスが発達すると,話し言葉の認識力も向上するつまり,音韻認識とレターボックスは相互に関連しながら発達していくようです。あと左右盲の話もしていました


そして最後に,超駆け足で,驚くべき言葉が!!

「レターボックスとは別に,脳には「音韻に関係する部位」と,「意味理解に関係する部位」がある。 
子供においては,『文字→音』の回路,つまり「文字を見て,音を想起するつながり」 を開発する必要がある。この部分は難しく,教師はここを明示的に教える必要がある。 
子供の脳は『文字→意味』の回路を勝手に開発する。これが自動化だ

★( ゚Д゚)!!゚Д゚)!!
つまりこれは,「アルファベット言語でも,ある種の視読の域に達するのが理想形」ということのようです!!この発言を講演最後の3分で聞いたときは,足腰立たないほどたまげました。アトランタまで行って本当によかった()

しかも,もう一言,続きがありまして・・・

だが,最初から『文字→意味』の回路だけを,直接開発しようとしてはいけない。 
教師が教えるべきはあくまでも『文字→音』の対応」。

゚Д゚)!!゚Д゚)!!
つまり,
教師がホールワード*で読めているからといって,生徒にもそれを最初から要求してはならない。
(*ホールワード(whole word):stopをまるごと「ストップ」と読み,それ以上分解しない読み方。今なお根強い,反フォニックスの最大勢力)
あるいは,
結果として生徒が視読の域に達するのはかまわないが,教師が最初から「いいよいいよ,音にできなくても。意味だけわかればいいよ」と言ってはならない。
さらには,
ある程度熟達するまでは,英語の音を伴わない状態でのサイトラは有害
(*サイトラ(sight translation):英文を見て日本語の訳を言わせる,つまりThis is a penという文を生徒に見せて,教師も生徒もこれを読み上げない状態で,生徒に「これはペンです」と言わせる。通訳における重要なスキルの一つ)
・・・ということを,この発言は示唆しています。


★家庭の役割は別にあるのでしょうか。これについては
「『家庭内における本の存在』は自動化を加速するので,読み能力獲得の成功に役立つ要素」とのことでした。加えて「『就学前にたくさん話をして,話し言葉の語彙を増やすこと』『音韻の知識』」を挙げていました。

☆    ☆    ☆

終了後,サイン会があったので,持っていた日本語版『意識と脳』をプレゼントしながら少し質問してきました。
私は「脳」という文字を指さしながら
「これは音にしなくても,brainという意味だとわかります。漢字は「文字→意味」ルートを非常に作りやすい性質があります,漢字文化圏の読み戦略はアルファベットのそれとはとても違います」と力説したところ,

アルファベット言語でも,自動化がカギなんだよ(automaticity is the key.)

と改めて念押しされました( ゚Д゚)そうなんですね~~~

もう一つ,こんな質問をしてみました。炎上しないといいのですが…

「脳の可塑性が止まってしまい,レターボックスはそれ以降は形成されないという,年齢的な限界はありますか?」

これに対しては「可塑性は減るだけで,完全にはなくならない」と言っていましたが,なおも食い下がったところ「思春期は大きな役割を果たす気がするI think puberty plays a big role.)」と言っていました…。
思春期(+_+)女子は超不利ぢゃないですか。

最後に,
「超一流の人は知っていることを(少なくとも一般人には)出し惜しみせず,オープンであり,ユーモアがある」は私がディスレクシア・ジャーニーで知ったことの一つですが,ドゥアンヌ教授もそんな一人でした。

~~~

昨夜,無事帰国しました。
アトランタは遠かったですが,むちゃくちゃ勉強になりました!
教材を爆買いしてきたので,次回はそれらを紹介したいです。 

2017-11-12

IDA@アトランタ報告(その3)

スタニスラス・ドゥアンヌ教授の講演は,本の内容と重なるところも多かったのですが,非常~に示唆に富むものでした。これについては改めてまとめることにして,それ以外で印象に残った発言を書いておきます:

~~~

・「科学的には,読み方をどう教えればいいかは分かっている。
どうやってそれを教育の場に転換すればいいのかは,まだ分かっていない」

IDAのスーパースター,マリアンヌ・ウルフ教授による,ドゥアンヌ教授を紹介するスピーチの一節。
ディスレクシアの原因遺伝子もつきとめられつつあるし,ディスレクシア脳と定型脳の違いも解明されつつある。そういった研究成果を,どのように読み教育に落とし込んでいくかを,我々は一丸となって考えていかなければならない」…という内容でした。

このResearch to Practice(研究を実践に転換する)は,今回あちこちで聞かれた,IDAの目下のテーマのひとつのようです。

教師には,脳科学の成果を,本当に細かく具体的な授業のコツに活用しようとする姿勢が求められています。

また,どこに行っても,最先端の研究者,現場の教師,そして親や当事者が,完全に対等な立場で語っているのは,アメリカの良い部分が強く出ていると感じました。
日本の関係者も,この点は見習う必要があります。最大のハードルかもしれませんが…

マリアンヌ・ウルフ教授の発言にはもう少し続きがあって,
「同じ考え方をする人たちと,完璧よりも進歩を目指して進んでいく必要がある。なぜなら読めるというのは貧困を絶つ最大の道だから」。
脳科学の研究者が社会改良の視点を持っている点も,IDAの大きな特徴です。

~~~

・「支援と配慮は同時並行であるべき:読み方を学ぶ努力をすることと,読めないことを受け入れてもらうことは,手に手を携えて進める必要がある」(remediation and accommodation should go hand in hand)

「Never Too Late!(遅すぎるということはない)」という題名にひかれて軽い気持ちで参加した発表。行ってみたら,スピーカーは今日が90歳(!!)の誕生日,ディスレクシア教育を1955年から行ってきたという,IDAにおけるレジェンドのようなお方でした。
古き良きアメリカという感じの,白髪を美しくセットして,ピンクと黒のツイードのスーツを着こなしたおばあちゃんです。
受刑者にゼロから読み方を教えた話にはじまり,一言一言が重く,胸に迫るものがありました。

このおばあちゃんのフォニックスの教え方は,非常にリズミカルなアナリティック・フォニックスでした
(ブレンディングはdoesn't make sense to them[彼らには通じない]と言っていました)。
成人で,すでに話し言葉を運用している場合は,単語のなかから音韻を取り出すほうが楽なのでしょう。

まるでジョリーのダイグラフ(ch,oo,orなど,2文字で1つの音になるレターサウンド)のように接尾辞や接頭辞を扱っていたこと,空書き(air-writingと言います)をすること,母音に限っては(無意識なのか)ジョリーのアクション風のものをつけていること,文字を教える順番もabcではなく,頻度と難度に応じた独自のものを採用していることなど,日本人中学生に教えるにあたり,いろいろ参考になる内容でした。

生徒は本物の本から読まないといけない。たとえほんの少しの単語しか読めなくても。教師が残りを読んであげればいいのです
「『読み聞かせてもらう経験がなければ,自分で読もうと思うこともなかっただろう』(ある受刑者の言葉)。録音を聞くのと読んであげることは違います。読んであげることは,読解力と読もうとする気持ちを高めるための最良の方法。録音を聞いてもこれは起こりません。ある程度読めるようになったら,オーディオブックも良いのですが」

テクノロジーに逆行するような発言ですが…ことディスレクシア読み指導の最初の段階においては,教師と生徒が,呼吸をあわせて,ひとつのテクストに向き合うべきだと言っているのだと感じました。

~~~

今回,よくわかったのは
アメリカ人も,ディスレクシアをめぐって,またディスレクシアを含む子供たちに英語をどう教えるかをめぐって,模索を続けている」ということです。
たとえば・・・「フォニックス」と一口に言っても,どういうフォニックスがベストなのかは群雄割拠,まだ誰も天下を取っていないようです。日本語にたとえれば五十音表が定まっていないどころか,小1の国語の教科書が乱立している状態( ゚Д゚)

「音韻認識が弱いと読字困難が出やすいこと,また音韻認識を伸ばすことがディスレクシアにとって効果的だという点については,エビデンスは多々あるが,多感覚が効果的という点についてはエビデンスがほとんどない」という仰天発言も,複数個所で聞きました。
でもオートン協会は多感覚は大事だとうたっているのですが・・・しかし多感覚の定義は実はあいまいなようで・・・(二転三転)

さらには,ディスレクシアの割合も,アメリカでも定かではないことも明らかに。
「スペクトラムなので,ここからがディスレクシアだという線引きが難しい」
とのことでしたが,多くとると20%,少なくとると5~6%とのことでした。

ここにて時間切れ。日本に帰ります!

2017-11-11

IDA@アトランタ報告(その2)

2時間後に,最大のお目当ての報告が始まるので,記憶が上書きされる前に書いておきます・・・

「天才たちは学校がきらいだった」の著者,トーマス・G・ウェスト氏のプレゼンは,日本から行ったかいがある素晴らしいものでした(T T)
IDA入りして初めて,それどころか学会と名がつくもので初めて,ディスレクシアの強みについて語られたプレゼンを聞きました。
それには理由があることも,この発表で明らかに・・・

・題名は「オートンが患者MPから学んだこと」。
オートンとは,ディスレクシアを「字盲」と名付けてはじめて世に問うた人。IDAは前身を「オートン協会(Orton Society)」と言い,またこちらではOrton-Gillingham(オートン・ギリンガム)メソッドが,ディスレクシア向け英語教授法としてスタンダードになっているようです。
この発表の根底にあるメッセージは「オートンは最初からすべてを見抜いていた」。

ウェスト氏は,オートンを「僕の第一のヒーロー」と呼び,こんなエピソードを紹介します:
「オートンは1925年,アイオワ州で142人のドロップアウトを集めて調査を行った。
そのなかでMP(16歳)という,まったく字が読めない少年を見て,当時新しかったビネー式検査(現在のIQテストの元になったもの)を行い,こう述べている:
IQ検査はビジュアル化の能力を正当に評価しない
彼の受け答えはすぐに返ってきたし的確だった』」
「つまり,オートンはIQという概念の限界をすでに見抜いていた。これはしょせん,学校で成功するのは誰かをはかるテストに過ぎない。アメリカでは現在,すべての面で成功するのは誰かをはかるテストだと勘違いされているが」

・「映像思考の人は,言葉や書物という古いテクノロジーの世界では分が悪いが,CGが表現するような新しいテクノロジーにはパーフェクトに適応できる。
これからやってくる複雑な世界に適応できる人種。」

・ウエスト氏の第2のヒーローはNorman Gerchwin。オートンに続いてディスレクシアのポジティブ面に迫った人で,早世がたいへん惜しまれまる方だそうです。
この人によると:
「ディスレクシアとは,脳の遂行機能と関係がある。ここは前頭葉のなかでも最も遅く発達するところで,ここが成長すると整理整頓の苦手もなくなる。そしてギフテッドなほど整理整頓の苦手度も激しい。
ディスレクシアの人は,通常の人より脳細胞の死滅が少なく,左脳と右脳が対称的で,長いつながりが多い。これは無関係なことをつなげる能力となる。
多様性,ランダムさをより多くもち,遅咲き[完成形に至るまでより長期間を要する]。
狩人タイプで,人間集団の進化に必要な存在」

・「ディスレクシアの強みは,小さな%,個人的な話,少数者の力,違いや個性の部分に現れる。このため,主流の"科学研究"(数値化し,より大きな数値のものを一般化していく)ではすくい取れない。
ディスレクシアの強みを記述するには,個人のライフヒストリーをじっくりと聞き,そこからデータを集める必要がある。
These talents are invisible to conventional academic measures.
(ディスレクシアの才能は,従来のアカデミズムの手法ではすくい取れない)
オートンは,ディスレクシア研究のはじめから,そのことを指摘していた。」

・「成功した偉大なディスレクシアにおいてうまくいったことを,あらゆるディスレクシアに活用すべき。ディスレクシアを教える教師や親もその部分をサポートすべき。」

・ウェスト氏自身もディスレクシアだそうで,ファミリーヒストリーを紹介していました。先祖はイギリスのコッツウォルズに暮らすクエーカー教徒で,食料雑貨店を経営する,町の便利屋だったそうです。
「ディスレクシアの血は何世代も,何世紀にもわたってさかのぼることが可能だが,これらが文書になって残っていることは珍しい。イギリスでは英国教会に属していなければ名門大学には入れない時代が長く,クエーカー教徒はアカデミックな世界とはほど遠いところにいた」しかし,それぞれの場所でクリエイティブに生きて来たのです。
祖先がかかわっていたという,飛行機,機械いじり,建築,絵画,発明…などのパワポを見せられました。生徒の関心,そしてうちの父の家系と重なる・・・


こじんまりとして静かで,しかもご本人も「エストニアで開かれていた電子政府の学会からとんぼ返りしてきて時差ボケが」と言っているくらいテンション低めの発表でしたが,ディスレクシアの人らしい,時空がゆがむような感覚を覚える発表でした。
終了後,「私がディスレクシアについて読んだ最初の本はあなたの本でした。You are my hero!!」と言いに行きました(笑)
この人の本は本当に読んでほしいです!!訳したい,でも時間が…


◆もっと実務的な発表もいくつか聞きました。
・ディスレクシアには,「雑だが速い」タイプと,「正確だが遅い」タイプがいる。このうち後者のほうが(アメリカの特別支援で要求されている「介入に成功」の基準に達するまでの)困難度が高い,という趣旨の発表は,「用語の定義が間違っている」「解釈がおかしい」と,フロアにぼこぼこにされていました。
でも私はしみじみと同意するところがありました。「読むのが遅いタイプのディスレクシアにとって,試験という時間制限の壁を突破するのは,やはり本当に大変だ」というメッセージを受け取りました。

・アメリカ人も,ブレンディングやセグメンティングを知らないようです!
教室でブレンディングをする動画を流したら,会場中が「へ~」「ほ~」「そうやるんだ~」という雰囲気になっていました。

なお,会場ではブレンディングやセグメンティングが「音韻認識強化の練習」とされ,「音韻と文字を結び付けること」がフォニックスと呼ばれているようです。
そして,フォニックスはシンセティック・フォニックスとほぼ同義のようです。

フォニックスは過去30年間,政治問題になるほど複雑な歴史があったようで,学校では「フォニックス」という言葉は禁止だった時代があったようです(これは本当に黒歴史らしく,あまり語られません)。その後,本気で識字率が落ちた(地方だと,日常生活をぎりぎり送れる程度以上には読み書きできない人が3割いるところもあるそうです( ゚Д゚)。オーストラリアは4割がそうだとの発言も)ので,政府が方針を転換したようです。
実は「ディスレクシア」という言葉も行政用語としてはどうやら微妙なようで,RD(reading disability:読み障害)と言い換えられているようです。

・「ディスレクシアの子には,シンタックスをきちんと教えるべき」と力説する発表では目が点に。構文を学ぶことが役に立つというか必要だという話です。
結論だけ書くと・・・どうやら,日本の受験英語は全然捨てたものではないです。というよりむしろ,日本の文法重視の英語教育は,英語に触れる機会が極端に限定された環境で最大限に効率的に英語を身に着ける方法としては,ものすごくよくできていると再認識しました。伊藤和夫恐るべし。
日本の英語教育に足りないものがあるとしたら,音韻認識とフォニックス,そして中学英語レベルの基本文が反射的に出てくるようにするための訓練だと思います。前からそう思っていたのですが,そのことを確信するに至りました^^

・ディスレクシア介入方法として,音韻認識の練習,フォニックスに続けて行うべきは,接頭辞や接尾辞を覚えること,そして流暢性(fluency)の獲得だそうです。時間をはかっての音読が必要とのことでした。そうでしょう。
これについては,日本の英語教育でよくみられる「長文問題の内容を覚えていれば解ける定期試験」は非常に有害と再認識しました。2行でも3行でも,覚えずに"読む"訓練の徹底が必要です。

・英語教育の本場?にも,確立したディスレクシア介入法は存在しないようです。
ディスレクシアは多彩すぎて,メソッドを確立することができないようです。
いろんな素材を用意しておいて,生徒にあわせて作るくらいのスタンスが必要らしいです。


2017-11-09

IDA@アトランタ報告(その1)

東京の自宅から足かけ22時間、アトランタまでやってきました!

アトランタは黒人の町です。ホテルで働いている人もどうやら全員黒人、町の金持ちも多くが黒人、会場の高級ホテルから徒歩5分の公園に昼間からたむろしている無職の若者たちも黒人。。
私が接する黒人の方々はみな、誇り高く、声が大きくて、堂々とした人たちです。こっちも堂々と受け答えしないと負けます(泣き笑い)

そんなアトランタで4日間かけて開催されるIDA(国際ディスレクシア協会)の年次総会。
会場内は一転、白人女性が圧倒的でした。黒人は1割、男性は3%以下。東洋人は本当にいません(お会いした唯一の方は、日本の大学教員の方でした!)
おそらくみなさん、全米から集まってきた教員なんだと思います・・・
なんとなく、聴衆の雰囲気はLD学会に似ています(笑)

本日印象的だった発言から:

「識字教育は人権問題である」
(Literacy is a civil rights issue)
全体シンポジウムで黒人女性の特別支援教師が力説していた一言。すべての人が読めるようになる権利がある。なぜ今日ここに政府関係者が来ていないのだ。公民権運動がこの地で草の根から始まったように、そろそろ識字教育も草の根[教師]から始まってもいい…という流れでした。

終了後、「私は日本で英語を教える一介の英語教師なんですけど、感動したと言いたくて来ちゃいました~~」と言いに行ったら「Don't say you're just an English teacher. We walk together(単なる英語教師なんてことはないのよ。それぞれの場所で戦いましょう)」と言ってもらえました。
英語って、中1単語だけの方がかっこいい~(笑)

「ディスレクシアへの介入は、1対1より1対4~5のほうが効果的」
「プルーストとイカ」の著者、マリアンヌ・ウルフ教授がフロアからスピーカーに入れていた突っ込み。「There's sort of a communal feeling, which drives the learning process」(そのほうが生徒の間に仲間意識が生まれ、学習が加速する)と。
そうなんです、もじこ塾が中学生クラスを集団化したのもまさに、この仲間意識の美しさを目の当たりにしたからです。(浪人生の1対1も、とても深いところまで行くんですけどね…)
ところで、マリアンヌ・ウルフ教授は、ものすごくエンパシーにあふれた方でした。

「音素は人工物である」(phonemes are artifacts)
音素(「単語の意味を変えることのできる、話し言葉の最小単位」ざっくり言うと英語のオトの最小単位)は抽象的な概念であり、これを理解することが読み能力には不可欠。そしてこれには明示的な学習が必要。
・・・ということをネイティブから断言されて、たいへん自信になりました。

「ディスレクシア脳は"寄り道"が多い」(配線が異なり、不安定で、神経リソースも食う)
つい数週間前に、中学生が自分語りで「僕は数学の問題を見てもいろいろ考えが寄り道してしまう」と語っていたのを、強烈に思い出させた一言。午前中のこのシンポジウムはそれ以外にも、いろんな生徒の読む様子を思い出させる内容でした。その一部:

・言語というのは、まず何より話し言葉として存在する。書き言葉は話し言葉を文字化したもの。(Writing is based on speech)。
そんな書き言葉の習得には、音韻認識・文字の知識・ブレンディング/セグメンティングが必要で、これらはすべて明示的に終えることが必要だし、また可能でもある。
・脳は一度文字を知ってしまうと変化し、その後もダイナミックに変化を続ける。生後4時間の新生児と、文字を知っている8歳では、言語の単音を聞いたときに脳が活性化する場所が異なる。脳は学習内容によって変化し、新たな学習に備える。
・定型児だと、字を見て0.1秒以内に、ブローカ野が活性化する。これは、口の動きと関係する部位。つまり、字を見た瞬間にオトが想起されるということ。(その後、ブローカ野と関係ない部位も活性化される。)
・読み能力を学習中の脳のほうが、読み能力が定着した脳よりも、神経のリソースを食う。
・ディスレクシアだと、活性化していく部位が異なり、ネットワークが不安定であり、かつリソースもより多く食っている。
・ここから、ディスレクシアに役立つのは
1) reduce unnecessary clutter(余計な情報を減らす):読みに直接関係ある情報だけ与える[だらだら長く無意味なものは読ませない、という意味かもしれません]
2) slow down time(スピードを落とす):寄り道が多い脳のためには、インプットの速度を落とせば、寄り道の分を打ち消せるだろう
3) develop alternative routes(脳の別経路を開発する)

→いろんな生徒のことが思い出されました。
読んでから、意味を想起するのにふた呼吸くらい置かなければならない生徒、
大量にチョコレートを食べながら読む生徒、
上で紹介した「どうしても寄り道してしまう」と悩む生徒。
あるいは、誤学習を徹底しすぎて、英語を見ても図形にしか見えず、オトとまったく結び付けられなくなってしまった生徒・・・
彼ら彼女らは、"脳の別経路を開発"することで、読み能力が改善するのでしょうか?

~~
夕方からは出展ブースへ。LD学会と違うのは、学校案内のブースが目立つこと(10校は来てます)。渡米前に聞いた話では、教育費に糸目をつけないユダヤ人子弟が、こうした少人数の学校に通わせるのだとか。そんな話はシンポジウムでは一言も出なかったことを考えると、やはりアメリカでは教育格差というものは、日本で報じられるよりもはるかに深い問題なのかもしれません。

私は教材系のブースを見てまわり、中高生用のデコーダブル・ブックス(フォニックスルールにできるだけ沿った本)のサンプルを何社かからもらってきました。「I came from Japan.」と言うとみんな驚いてくれます(笑)。もじこ塾で多読を宿題にするのが今の野望です。

2017-11-07

もじこ塾だより、by笠野紺さん(5)

紺さんが、ディスレクシア感覚を、本当にストレートに書いてくれました:
これは、「字を見て音に変換するのがつらい」感覚。
ディスレクシアの定義といわれる、「デコーディング」の困難のことです
※デコーディング:暗号解読、つまり文字という暗号を音で解読すること

こっちは、日本語よりも英語でより強く出る「細かい聞き間違いが多い」。
音韻認識の困難と呼ばれるものです


これから、IDA(国際ディスレクシア協会年次総会)を聴講しに、アトランタまで行ってきます![→多動、衝動性]
メールをくださったみなさま、ありがとうございます。

11月に受験生の授業を休講にするのは少なからず申し訳なく思っておりますが、生徒たちは
「アトランタでの話には相当期待してます」(高3)とか
「(「アメリカのディスレクシア教育は日本より30年進んでいるらしい」と言ったら)僕も連れてってください」(中1)
と言ってくれ・・・なんとよくできた子たち(T T)。

アメリカで私は何を見ることができるのでしょう?!乞ご期待!

~~
お知らせ:もじこ塾ではこのたび、河合塾の全統模試を団体実施できることになりました!
第1弾として、センター試験プレテストを時間延長を含む合理的配慮のもとで実施します。
詳しくはこちらをご覧ください→

2017-10-25

もじこ塾だより、by笠野紺さん(4)(単語カード/ちゃっかり勉強に入れてもらう助手です。)/LD学会


最近は、不規則動詞活用をかるた形式で暗記することに挑戦しています。
この方法だと、定型なら驚くほど一発で入るのですが、
ディスレクシアだと、一発で覚えるとはいかず、やはり丸暗記は大変です。
でも、ゲームの形にすることで、かなり暗記のハードルは下がるようです。



「読まないgh」も「読まないkがついたknow」も、
易しめの動詞のなかにさりげなく混ぜて覚えさせる作戦。




従属接続詞は、ディスレクシアでなくても鬼門ですが
地上の三次元的な因果関係が苦手(?!)なディスレクシアには特に鬼門に見えます


最近は、授業の最後に書いてもらうようになりました。
よほどの書字困難がなければ、ディスレクシアでもけっこう頑張ってみんな書きます。
というか、むしろ果敢に書こうとするディスレクシアが意外と多いので、驚いています…



中学生はナンセンスな文を作るのが大好き、大興奮して作っています

/r/と/w/はネイティブの子供でも間違うんですよ~、
なので、これは良い間違いです^^


読むのも書くのも、いま少しずつリハビリ中の紺さんですが、
「LD学会ではどんな話をしたんですか?」
「『視読しすぎると、漢字は切り抜けられるけど、英語で必要以上にこけるので、日本語をちゃんと読む練習をする必要がある』という話を」
と言っただけで、すべてを理解してくれました(笑)。
お目汚しですが、発表原稿を置いておきます→
人生で最も多くの人の前で話したかも。。当日お越しくださった方、ありがとうございました。

2017-09-06

もじこ塾だより(3)、by笠野紺さん/秋の予定


BBカードはもじこ塾に欠かせない存在に。
これを導入して、はじめてdoとisが区別できるようになった子も


BBカードについて、詳しくはこちら。昨年行った難波先生特別セミナーのまとめです:
もじこ塾特別セミナー「出来るが先、知るは後、B.B.メソッド」

もじこ塾では、BBカードを使って、神経衰弱、スピード、じじ抜きをしています。
#七並べをしたら、一部の生徒が戦略的すぎて英語の勉強にならず、崩壊しました(苦笑)。
#大富豪もよさそうな気がするのですが、生徒がルールを知らないと言います。


BBカードは、文法事項の定着をはかるために使っており、生徒にもそのことを明言しています:
・毎回きちんとテーマを決めて宣言する。
 例:「今日は、have to/don't have toがテーマです」
・神経衰弱の場合、誰かがとったら、それ以外の生徒達は、例文にhave to/don't have toを加えて順に言う。
・ときどき、中2でも中3でも、単なる疑問文や否定文への言い換えも混ぜる。ディスレクシア的に一番苦手な部分なので。

これは本来の使い方より、少しだけ勉強っぽいのではないかと思います。

読めない・書けない・小さな単語がなかなか区別できない子たちなので、いつの間にか例文を覚えてスラスラ・・・という感じではないです。
それでも神経衰弱にめちゃくちゃ燃えるなか、英語にものすごく拒否反応がある子にも文法を教えられる、自分で文を作る力を鍛えられるという点で、これはすばらしい教材です。

上のマンガにもあるとおり、BBカードで神経衰弱をすると、生徒一人ひとりの記憶戦略も垣間見えます。
数字を使って覚える子、絵で覚える子、なんとなく例文を覚えている子、札の位置を正確に記憶できる子…

上のマンガには書かれていないこと、それはなんといっても、紺さんの助手としてのディスレクシア的な気配りです。
勝負に異常にこだわって切り替えられなかった子を、助手の紺さんは辛抱強くなだめてくれました。ありがとう紺さん。

~~~

★もじこともじこ塾の、秋の予定★

・現在、中2講座@南新宿の新規募集を行っています→

・10月8日
LD学会@宇都宮の自主シンポジウムの話題提供者として発表します!
こちらの記事をベースにした話を依頼されています。頑張ります。

・10月21~22日
アジア太平洋ディスレクシア・フェスティバル@東京の裏方を務めます。
こちらは発表だけでなく、展示もなかなか興味深い内容です。
トマティスのブースで骨導ヘッドホンの体験、山下先生によるジョリーフォニックスの授業、などなど。
ディスレクシア(英語)教育に興味のある方にとっては、とてもお得な2日間になることうけあいです。お申し込みはこちら→

・11月7日~12日
アトランタで行われるIDA(International Dyslexia Association)の年次総会に行ってきます!
以前書いた左右盲の記事で著書を紹介したStanislas Dehaene(スタニスラス・ドゥアンヌ)コレージュ・ド・フランス教授がNew Data on how Literacy Transforms the Brain(識字能力はいかに脳を変えるか)という90分間の講演を行うので、聞きに行ってきます。
これを聞かないと一生後悔する気がするので…往復40時間。もちろん自腹です。応援よろしくお願いいたします(?!)。
※この場をお借りしての業務連絡、申し訳ありません。この期間中のもじこ塾の授業は、受験生を優先して補講を行います。詳細は改めてご連絡いたします。

2017-08-12

もじこ塾だより(2)「骨導ヘッドホン」、by笠野紺さん



骨導ヘッドホンは、ほんとうに不思議です。
私もこれをつけて、ときどき音読をしますが、私の場合はADHDならではのわちゃわちゃが減る、具体的には「自分の話し言葉をゆったりと受け止められるようになる」という効果がありました。
沈黙や間が怖くなくなりましたし、長母音をちゃんと伸ばせるようになったし、だいぶ早口がおさまったと思います(笑)。

たぶん、前より少しはわかりやすい話し方になったと思います。
生徒の反応も以前とは変わってきました。集団授業でも、対話しながら進めることができるようになりました。

ここまで書いて、紺さんと同じことを、別の角度から言っていることに気付きました!
おそるべし。



この骨導ヘッドホン、気持ち悪いと言う生徒には無理強いしないのですが、
装着した生徒については・・・

・声がやたら大きい生徒につけると、穏やかで普通の大きさになる
・ものすごく小さい声で話す生徒につけると、声にハリが出る
・構音に困難のある生徒につけると、前よりしっかり発音できるようになる
・これを付けて音読すると、記憶の定着が進む

・・・という効果がみられます。

特に、正しく発音し分けられることは、正しく読めて書けるための前提なので
そこに働きかけることのできる骨導ヘッドホン、効果はかなり期待できると思っています。

骨導ヘッドホン(正式名称:プロナウンス)について、詳しくはこちら:
トマティスリスニングセンター東京→

~~~

紺さんには、もじこ塾の集団指導の部の、助手に入ってもらっています。
主に雑務をお願いしてますが、補助教員としての力もなかなかのもの。
フォローが必要な子の横にさりげなくついて、なだめたり切り返したり。
ディスレクシアの子の気持ちが、よ~くわかるのでしょう。


またこんな役割も・・・
紺さんは本当に音韻認識が弱いらしく、ぱっと言われたことがよく聞き取れないらしいのです。
「タイマー止めて!」と私が言ったとき、「はい」と言ったのですが、目の前にタイマーがあったのに、止めなかったことがありました。数秒後に、となりの生徒がさりげなく止めました。
あるいは、フォニックスビンゴで、読み上げられた単語がなかなか見つからず、やはり隣の生徒が「ここだよ」と教えることも何回かありました。

そんな紺さんの様子が、中学生ディスレクシアにとって、どれほど励ましと安心につながっていることか、はかり知れません。

いつからでも、その気になれば、人は変われるし、
何歳からだって勉強していいんですよね。(T T)
そんなメッセージを、生徒は紺さんから受け取っていると思います。

2017-07-27

もじこ塾で使っている道具たち[17/09/15追記]

これまで勉強会で何度か紹介してきた、ディスレクシア学習的に便利な道具たちの、リンク先をお知らせします:

ブギーボード

書いたらすぐ消せるメモパッド。
ディスレクシア的には、自分の字がいつまでも残らない点が◎です。
ホワイトボードでも良いのですが、こちらは一瞬で消えるので授業がテンポよく続けられる、消してもゴミが出ない付属のペンでなくても書ける(爪で引っかいても書けます)点で、良いと思います。
また、このように黒地に白のほうが見やすいと言う生徒も、かなりいます。

欠点は、「間違ったところだけを消す」ができない点(漢字の偏だけ、など)ですが、慣れれば気になりません。


ブギーボード(廉価版)

本家のブギーボードは5000円前後するので、
もじこ塾ではそれより安い、2000円前後のものを使っています(↓リンク先)

機械翻訳?の日本語が若干あやしいですが
品物には問題ありません






[17/09/14追記]
とても多くの方に「ブログに出てたあれ買いました!子供がとても気に入っています」との報告を頂いています。ありがとうございます。
実は、もじこ塾では2種類の廉価版ブギーボードを使っています。
もじこ塾に来る生徒からは、「こちら↓のほうが書き味が好き」「書いている感がある」という声が多いので、紹介しておきます。
上のほうがほんの少し(本当に本当に少しです)書く時につるつるしています。下のほうが"ふこっ"としていると言いますが、ごくごくわずかながら沈み込む感じがあります。
また、下のほうが太く、緑色がかった線が書けます。
寸法は、上と全く同じです



大きさは12インチが、英語のセンテンスを書くにはよいと思います。
8.5インチだとちょっと小さめで、単語を1語だけ書いて覚えるには良いサイズです。

進化の激しい業界なので、半年後にはもっと安くなっているかもしれません。
この1年でも、使い捨てだったのが、ボタン電池を交換できる形式に進化しました。
(とはいえ、3万回は使えるそうで、まだ電池寿命まで使ったことはありません)

初めてこれを見た生徒は、たいていびっくりします。
そして、かなりの生徒が、授業後もこれに落書きをします(笑)
ディスレクシア的だなと~と思う瞬間です。


骨導ヘッドホン

正式名称は「プロナウンス」。
トマティスリスニングセンター東京(両国)などから購入できます:
http://www.ear-voice.com/brain.html


[17/09/15追記]
・骨導ヘッドホンについては、こちらの記事もあわせてどうぞ
・トマティスリスニングセンター東京の「プロナウンス」のページにリンクを貼って頂きました。「プロナウンス」のページからお越しの方々、ようこそm(_ _)m



これは、自分の声を骨導、つまり鼓膜ではなく骨を通じて聞くためのヘッドホンです。
私はトマティス理論を信奉しているのですが(詳しくはいずれまた)
その理論に基づき、耳を整えるものです。
耳が整うと、読めるようになり、ひいては書けるようになります。

また、自分の声を自分で聞いて、お手本との差を修正していくことは、ディスレクシアでなくても、語学学習において非常に効果的だと知られています。
このプロセスを、録音せずダイレクトに行うためのヘッドホンだと言うこともできます。

私が使ってみた経験上、プロナウンスが効果を上げるのは:

音韻認識が非常に悪い生徒(集団授業で、先生が何を言っているのか、ぼわぼわ~となって聞こえない人。runとranの違いが耳で聞いてもわからない人)、

声が小さくて発音のいい生徒(耳が繊細な人/聴覚過敏の人)、

◎片側難聴や耳が詰まっているなど、耳が聞こえていない自覚のある生徒

こうした生徒は、使い続けることで、かなり効果があると感じています。

逆に、×想起が遅いタイプのディスレクシアには、あまり効かないようです。

[17/09/15追記]
こちらも、コメントにあります通り、「ヘッドホン買いました」の報告を数多く受けています。
また、「他社の骨導ヘッドホンを買ってみたが、いまいちだった」との報告も入っています。

他社からも骨導ヘッドホンはいろいろ出ていますが、「プロナウンス」は、高周波を強調することで、耳の奥の筋肉を鍛え、聞く力を整えるのだそうです(それがひいては読む力、書く力につながっていきます)。
先日、5000円程度の骨導ヘッドホンを試させてもらいましたが、「プロナウンス」はこれらと比べると、自分の声が圧倒的にくっきりはっきりと聞こえます。
はずしてからも、しばらく影響が続く感じがあります。


2017-07-18

もじこ塾の様子、by笠野紺さん

もじこ塾・中学生の部の様子を、当ブログでおなじみの笠野紺さんが
漫画でレポートしてくれました!


ディスレクシアである紺さんからは
「自分は出だしの数語が拾えないので、Did you ...の部分が聞こえない」
という指摘がありました。
なるほど!そこが聞こえないと、疑問文への答えを作るのは難しいですね。
最初に名前を呼びかけるなどして、一言入れるようにしました。

フォニックスビンゴは、
フォニックスルールで読める単語だけで構成されたビンゴで
毎回、特定の音をテーマにしています
(上では、shとsの音の区別がテーマ)。
初見の単語を、1文字ずつきちんと音にして読む練習です。かなり効果があります。



「フレンドリー」のエピソードは、私も感動しました…(T T)
紺さんが「読めないわ~」と苦笑していると、
生徒がひとり、紺さんの隣に移動して、読み方を教え始めたのです!

ディスレクシアの子は時々こういう、はっとするような優しい行動に出ますね。
私のなかでは、これができるかどうかが、純粋?ディスレクシアの判断基準のひとつになるほどです。

この生徒は、ブレンディングには昨年からすごく苦労しているのですが、
しかし、紺さんには正しい内容を教えていました…!
「生徒が教師役をするのが、学習内容の定着には最も効果的」を地で行く展開でした。

☆  ☆  ☆

紺さんは、自立への新たな一歩として、このたび東京に出てきました。
今後は、もじこ塾の広報担当として、授業の様子をレポートしてもらいます。
乞うご期待!
そして紺さん、東京へようこそ(・∀・) 
これからもどうぞよろしくお願いします!

上の授業の詳しいご案内は、こちらをご覧ください→
まだ若干名の空きがあります。

2017-05-03

4/30受験報告会

4月30日、もじこ塾から今春進学した生徒による、受験報告会を行いました。
お越し下さった皆様、ありがとうございました。

個人的な話が多かったので、それを抜かしてまとめると:

  • 合理的配慮申請には、診断書が必須である。
  • 合理的配慮申請は、準備が大変。親のサポートがないと難しい。
  • 学校で配慮を受けていなくても、申請は可能。
  • 申請する配慮の内容は、できるだけ具体的に言える必要がある。
  • 合理的配慮を、受ける選択もできるし、受けない選択もできる。
  • 配慮を受ける場合、"障害"を自分の中で受け入れる苦労と、進学後に何か不利益を被るかもしれないという心配がある一方、入試での点数が(かなり)上がるというメリットがある。
  • 「特にカミングアウトせず、支援を受けない」という自由もある。
  • 高校在学中からディスレクシアに気付いている場合、AO入試や推薦入試なども、視野に入れるべき。
  • 一般入試[=時間制限の厳しい、ペーパーテスト一発勝負]は、ディスレクシアにとっては、非常に厳しい戦い。


【皆様のご感想より】
◆子どもたちが自分と向き合い、歩み方をしっかりと、自分で決めようとしてる、これは本当にすばらしいことだと思いました。…

◆…大学入試に関して、又はそれ以外のことについても具体的で、実感を持って発表して頂き、その大変さや対策がよく伝わりました。発表者さんおふたりの学習に対する姿勢や、後進の方に対してサポートしたいという尊い気持ちが本当に貴重で、今日、おふたりの生き方を拝見できたことも、大きな力を頂いたと感じます。

◆…どんな質問にも真摯にお答えいただくみなさまに本当に感動しました。話の本質をとらえる能力はものすごく高いのでは。すばらしいです。

→私も、生徒たちが受験を総括する様子が、実に感慨深かったです。
皆さまが熱心に聞き入る様子そのものが、2人の力になったと思います。
ありがとうございます。

◆…ディスレクシア・LDというものへの配慮は難しいのだなと思いました。お二人ともディスレクシアについては今後はカミングアウトするつもりがないということが印象的でした。「そういう自由も認めたい」というもじこ先生のコメントもいいなーと思いました。あと「ハッピー」ということが大切というのが目からウロコでした。…

→受験報告会で言おうと思ってて、言い忘れたのですが、
ディスレクシアというのは元来、勝手に工夫したり、決まり事の裏をかいたりするのが大好きな人種です。なので、がちがちに道を決めて「さあ!黙って従いなさい」と言われるのは、ものすごく嫌がるはず。「こういう制度がある、使うも使わないも好きにしなさい」と工夫の余地を残すのが、ディスレクシアを動かすコツだと思います^^。

◆…お二人とも、大変優秀であっても、大学受験がいかに厳しいかわかりました。
子どもは小学校の頃からスピードが遅いというのが悩みなのですが、解決してません。本日、当事者の方から「時間的配慮が助かる」と聞いて、子どもの悩みも深刻なのがわかりました。

→教室で見ていると、ディスレクシアには「速いけどちょいちょい間違う」タイプと、「正しいけど遅い」タイプ、(さらには「遅く、かつ間違う」という、より一層大変なタイプ)がいます。できる部分をまず認めてから、できない部分は地道に反復すること。意識を高くもって場数を踏むことが、大切だと思っています。

◆…お二人の、学歴がほしい・・・という切々な思いが伝わってきて、学歴社会を思い知らされました。中1息子がいますが、本人にしっかり、将来について考えさせる所から始めたいです。…将来、まだ色々な道もある事、英語を使わないで受験できる事、技術を身に付ける道もある事、等、選択肢が広がりました。

→「実技系や専門学校のなかには、英語が受験科目に含まれない場合がある」という話です。とても少ないですが・・・

◆点字受験の合理的配慮は30年以上の歴史があるので、現在は当事者や家族が奔走しなくてもいいシステムが出来上がっている。入試センター事業部の中にそういう部署が出来ているが、初期の頃はその体制を作るのに学校や関係団体は大変だった。
発達障害(LD、ディスレクシア含)は一律の合理的配慮事項として明確化できるかどうかわからないが、そういうシステムを作ることを国or文科省などへ公的に働きかける手段はないかを模索したらよいと思う。今回のもじこさんたちの動きが先駆者なんですね。視覚障害の世界にもそういう先駆者がいました。

→道村先生。ありがとうございます。
先生の上のご発言は、会に深みを与えて下さりました。
おっしゃる通り、LDの大学受験は、点字受験の合理的配慮から、学ぶべきことがたくさんありそうです。
また「どうしても出来ないことというのはある。それを認めた上で、自立した大人になるために、絶対に習得しなければならないことは何か/学校に何を求めるか」という姿勢は、視覚障害の世界のほうがはるかに進んでいます。

一方で、LDは外見上はわからない特性です。また、文字重視の近代社会ゆえに、この特性が"障害"と呼ばれている面もあります。
こうしたことが、一枚岩となって公的機関に働きかけることを、難しくしているかもしれません。

もじこは当分は一介の英語講師であり続ける予定なので、公的機関に声をあげる部分は、これをお読みの方々にぜひお願いしたいです!
できる人ができることから、です。。

◆もじこ塾では「いたって普通の学習をやっている」といわれたことにびっくりしました。目指すところが点数だけではないのだと知りました。もっと深い所も聞いてみたいと思いました。実際の状況など・・・

→「もじこ塾では至って普通のことをしている」こんな言葉が出たことに、自分自身、びっくりしています。
でも、生徒の顔を思い浮かべたら、きっと「普通のことをしている」と言うような気がしたのです。「ただひたすら、読む(書く)練習をしています」と。
しかしながら、「ただひたすら、読む(書く)練習をしています」は、世間一般の"普通"とはかけ離れているかもしれません。ため込む前に、少しずつここで披露していきたいです。







2017-04-16

4/30:もじこ塾 受験報告会のお知らせ

昨年度のもじこ塾に、浪人生として通い、合理的配慮を受けて入試に挑み、
この春、進学した生徒2名(男女1名ずつ)が、受験報告会を行います。

詳しいご案内はこちらでお読み下さい→

今日、発表者のふたりと打ち合わせを行いました。
新生活の最初の1週間で、ふたりとも大きく成長し、
受験の日々を振り返る新たな視点を持つようになっていて
その指摘のひとつひとつが、実に洞察に満ちあふれたものでした。

もちろん、このような抽象的な話だけでなく、
合理的配慮入試に関する非常に具体的な話もする予定です。

ほかでは聞けない話になることうけあいです。
関心のある方、ぜひお越し下さい。

2017-03-07

「読み書き困難の子への英語の教え方をシェアする指導者の会」/ブログ開設5周年

ご報告が遅くなり申し訳ありません。
先週、3回目となる指導者向けの勉強会を行いました。
ご参加下さった皆様、発表して下さった方、ありがとうございました。

☆  ☆  ☆

1人目の発表は、教育ママから、LD児をも対象とする能力開発講師へと転身を遂げた方。
教材や心の持ちようについて、渾身の発表でした。

感想より:
・「考えない子」を育てる今の教育システムに、NGを体で表現できるLD児たちに感謝なんですね。
・私の教室に来ている読み書き困難の子は、みんな耳が良く、発音もよいです。わからない問題も多いのですが、自分の知識を使ってなんとか答えを出そうとする力は、他の子よりも強いように思います。LDの子たちのよいところをうまく利用した英語学習の可能性について学んでみたいです。 
・学校の先生にも聞かせたい!と思いました。息子のプリント、ノートに大きくつけられた、沢山の×を思いだし、心が痛かったです。(「×を大きくつけてはならない」という話に対して)

発表者の方より:
~~~
「能力あそび」の時間についてご質問頂いた方、
イメージがつかみにくかったかもしれません。
京王線・千歳烏山でやっている英語クラス(金曜日)は会場もひろく
見学可能ですので、いつでもどうぞ、とお伝えください。


教室のFBページをご覧いただくのも参考になるかもしれません。
ご質問などもFBページから受け付けてます。
~~~

☆  ☆  ☆

2人目は、予定していた方が急病につき、
ピンチヒッターでわたくし(もじこ)が発表を行いました。
「日本の中学1年生用の「シンセティック・フォニックス」の構築に向けた一提案」

いま私は、予備校で、新中1(中学受験直後の小6)に、シンセティック・フォニックスを教えています。
ジョリーは素晴らしい教材ですが、未就学児用に作られていますし、私には予備校ならではの制約があります(他社商品は使えない、教科書[特にNew Treasure]につなげなければならない)
そこで、知的好奇心旺盛な日本語ネイティブの新中1用の、さらにはディスレクシア・フレンドリーであることを念頭においたシンセティック・フォニックスの案を発表し、皆様の意見を伺いました。
感想はおおむね好評でした。が、

シンセティック・フォニックスは非常に学習効果が高く、生徒はすぐに「できる自分」を確認できる。このため、吸収力の高い子があっという間にのび、LDの子との差が開く。

という点については、参加者の方からも同じ指摘を申し込み時に受けていたのですが、答えが出ませんでした。

この発表内容については、もう少し練り上げてから、公開します。


☆  ☆  ☆

この会は、現場の声をシェアすることにこだわる、また保護者が指導者になるケースも多々あるので(今回の発表者は二人ともそうです)、両者の垣根を作らない・・・という趣旨で始まりました。
3回目の今回は(も)、平日昼間の開催にもかかわらず、さまざまな立場で学校現場に関わる方、さらには当事者の方まで、多彩な方にご参加いただくようになりました。
ありがとうございます。

・保護者の方たちの声を生で聞くことができたのが今日の一番の収穫でした。また、指導者の方たちの知識や熱意に触れ、大変勉強になりました。学校現場で、どんなことができるのか、真剣に考えていきたいとあらためて感じました。

☆  ☆  ☆

もじこの個人的感想は、あいかわらず飛躍が多いのですが
気付いた人が、それぞれの場所で、できることをする
これが、変化に不可欠な一歩だと、
そして、自分の直観で「これはディスレクシアの子に響いている」と思えたことは、たとえ一般に"良い"とされることとは違っていても、勇気をもって実行すべきだと、改めて実感しました。

さらに、次の段階として、「気付いた人同士がゆるやかにつながると、変化がさらに加速する」があるようですが、私にとってはここが難しい。
せっかく多彩な方をお迎えしているのに・・・大きな課題です。



当ブログは3月3日をもって、開設からまる5年が経過しました。
この勉強会もそうですが、ディスレクシア・ジャーニー最大の教訓のひとつは「情報は、出せば出すほど入ってくる」。
情報というのは、ため込んだり、一方的にもらおうとするだけだと、手に入らない種類のものらしいです(少なくとも良い情報は)。本当です。

この5年、ずいぶんいろんなことが変わった気もしますし、特に英語教育の現場は何も変わっていない気もします。
今後とも、ディスレクシア・ムーブメントを加速させていきたいです。
皆様のお力添えを、どうぞよろしくお願いいたします。



(次回の指導者向け勉強会の開催は未定です。発表してみたいという方が1名いれば、開催が決定します。私でよければ・・・という方、ぜひお知らせ下さい!!)



2017-02-02

もじこ塾の新体制につきまして(その2)

いよいよ大学入試のシーズンが始まり、もじこ塾の1年目は一区切りを迎えました。
1年間がんばった生徒たちには、(月並みな表現ですが)全力を出し切ってほしいです。

さて。
偶然にもこの区切りのタイミングで、もじこ塾は常設の教室を持つことになりました


新宿駅・新南口を出て、少し直進して、右を見たところ。
新しいもじこ塾の教室は、この歩道橋を渡りきった所にある茶色いマンションの一室です

新しい教室は、新宿と代々木の中間、代ゼミタワーのとなりの巨大なワンルームマンションの一室です。

これまでもじこ塾は、とても雰囲気のよい2ヵ所の教室を、時間単位で借りていました。
貸して下さる方々はいずれも、ディスレクシア英語教育にとても理解があり、生徒たちを何かと気にかけて下さっていました。いずれも、ディスレクシアの個別指導には最高と思える場所でした。

しかしその一方で、生徒同士が交流し、お互いから学び合えるような"場"を作りたい・・・とも思うようになりました。
そういう"場"がほしい、ほかの生徒と話してみたい、と言う生徒が何人かいたことに、とても後押しされました。

そして年末以来いくつもの偶然が重なり、新しい教室を作ることになりました。

新しい場所は、新宿駅から徒歩圏ですが、繁華街は通らず、むしろ予備校街と言えるエリア(なにせ代ゼミの隣り)のため、新宿駅との往復に治安上の不安は一切なく、
「その1」の予備校からも徒歩3~4分と、偶然にも土地勘がある場所で、
さらにはバスタ新宿が出来て以来、外国人観光客がますます増えており、世界を肌で感じられる場所でもあります。
マンション自体も、24時間守衛さんがいる、非常に管理の行き届いたところで、
これだけの好立地にありながら、家賃は現在払っている教室使用料とほぼ同額。
部屋の雰囲気も、感覚の鋭いディスレクシアな生徒のおめがねにかなうものだと信じています。
よくぞこれほどの場所が見つかったという物件です。

来年度のもじこ塾新宿教室は、ここに大学受験生をお迎えします。


これまで、当ブログを通じて共にディスレクシア・ジャーニーを歩んで下さった方々、もじこ塾を物心両面で支えて下さった方々、そして何より、もじこ塾に通った(いる)生徒のみなさん。本当にありがとうございます。
皆様の存在に支えられて、2年目のもじこ塾は進化します。

新しい教室に生徒の皆さんをお迎えするのが、今から楽しみです。

2017-01-10

ディスレクシアを知る(知ってもらう)ための本

2016年は、ディスレクシア関連の良書がたくさん出版されました。
定番書とあわせて、まとめてみました。★は2016年に出た本です。

わたしのそばできいていて
【!号泣注意!】

学校にディスレクシアのことを伝えるのに、実に最適な絵本が登場しました!!
読めない子供の気持ちが痛切に分かるだけでなく、教師はディスレクシアの子にどう接するのがよいのかまで教えてくれる一冊。あと、犬の素晴らしさも分かります(泣き笑い)

「ディスレクシア」という単語は出てこないので、子ども本人にディスレクシアのことを伝えるのにもいいかも。

読めなくても、書けなくても、勉強したい

ディスレクシアを、日本でほぼ最初にカミングアウトされた方による手記。
ブログを書籍化したものです→【ブログ号泣注意!】
この本を担任の先生に渡しているという親御さんも、かなりいるようです。

1点だけあえて釘を刺すと・・・
この著者の方は不運な境遇と、ディスレクシアをひた隠しにできた時代的状況があって、今も驚くほど読み書きが困難です、が、「この方ほど読み書きが困難でないとディスレクシアではない」わけではない(=この方より読み書きができても、ディスレクシアの可能性は十分にある)ということです。



発達障害の僕が輝ける場所をみつけられた理由

2016年に出版された、発達障害(特にADD)を知るための、新たな必読書。
本人の当事者感覚の話も良いですが、お母さんの文章がとても勉強になります。

自分の特性を早いうちからきちんと理解し、親子で話題にすること、
できないことも諦めず、地道に努力すること、
助けてくれる人で周囲を固めること・・・
「ディスレクシアには温室が必要」を改めて実感する一冊です。




当ブログでもいまもアクセスの多い翻訳記事「ADHDにはグルテン除去が効果的」の内容について、日本語で書かれた本がついに出ました!
発達障害と腸の関係、酵素や代謝の重要性について、全部書いてあります。
この方面の話には賛否両論あると思いますが、腸内細菌不足が発達障害の悪い表れ方を助長している可能性が高いということは、知っていて損はありません。






合理的配慮の教科書とも言える1冊が、Do-IT Japanの方々の手によってまとめられました。
お子さんがディスレクシアと知って途方に暮れている人が、いろんな手立てがあるということを知るために、また学校にそれを知らせるために最適。
②の著者、井上さんの"その後の話"も読めます。


④がDo-IT Japanなら、こちらは加藤醇子先生率いるJDAの主力メンバーの方々による、その名の通り"ディスレクシアの入門書"。
ディスレクシアの定義、検査、診断、(主に小学校での)支援…といったことが包括的に分かります。
こちらも、すでに学校でいろんな支援が行われていることを知るために、また学校に働きかけるために適しています。


人間脳を育てる

ディスレクシアは脳の配線が違うので、ディスレクシアの困難を和らげるには「脳の配線をよくする」ことも、ひとつのアプローチになります。
ブレインジム、感覚統合など、いろんな本を読み実践しておりますが、この方面について最初に読む一冊としてお勧め。
読者の方からご紹介頂きました。てぷさん、ありがとうございますm(_ _)m


★当事者感覚を知るための本★

ぼくが発達障害だからできたこと


この方は「過度激動」の当事者であり、かつ書字に困難があるそうです。
感覚がものすごく鋭敏で感動しやすく、過集中(倒れるまで走ったり)の傾向があるようです。
そんな方が作家的視点から、発達障害の思考法を語り尽くします。
当事者感覚が、圧倒的な密度で語られます。発達障害の突出した部分と欠落した部分は裏表であることがよくわかる一冊。

そしてこの本には、下の著者がかかりつけ医として登場します…
著者はたくさんの発達障害本を書いていますが、そのなかで1冊と言われれば私はこれを挙げます。ADHDの当事者感覚がよくわかります。

ところでこの方は、ガンのサバイバーでもあり、その経験をもとに「腸活でガンを治す」というテーマの本も書いています→。発達障害と腸との関係を、そんなところからも感じます…


長見良くんは中2でディスレクシア、漢字はほぼまったく読めないという設定。
今回改めて途中まで読み直しましたが、本当に驚くほど細部まで、ディスレクシアの子の行動や考え方、間違い方、学校のこと、家族のことまでもが、リアルに描かれています。作者の観察力に脱帽です。物語としても、とても切ない。
筑波大の宇野先生が監修しています。




アメリカ人の詩人による、ディスレクシアの当事者感覚の本。
不安、孤独、少しずつ再起、子供と同時に自分もディスレクシアだと知ったことによる自己発見など…を詩的な言葉で語っていて、大人ディスレクシア本人に刺さる本かなと思います。
何人かの大人の、ディスレクシアに理解を示す非ディスレクシアの人から、この本は感動した、ディスレクシアの人の気持ちがよくわかったという感想が届いています。
私は英語で読み、具体的なこの言葉というよりも、著者の子供の頃の心象風景が、強く印象に残っています。きっとディスレクシアの子はこういう思いを抱えているのだなと…
上の原書

題名を直訳すると「ディスレクシア的アドバンテージ」

当ブログ最大推しの1冊。英語が読めるならぜひぜひご一読を!
もじこ自身がディスレクシアについて最初に読んだ本。
おかげで、ディスレクシアについて、最初からポジティブで俯瞰的な見方ができました。これ以上のことは長くなるので、ここでは語りません。要旨はこちら→

「ニューロダイバーシティー」(神経多様性)の基本書。ディスレクシアについて、学問的見地からも知りたいという人には、私はまずこの一冊を推します。詳しい内容はこちら→