「2eニュースレター」で見た記事を訳しました。
著者のケリ・サンドマン=ハーリー博士は、
アメリカ西海岸でディスレクシア研究所を運営しているようです。
2eは直訳すると「二重に例外的」、
発達障害であり、かつギフテッド(=定義がいろいろあるようですが、
ざっくり言えば特定能力で突出して優秀だということ)を言うようです。
もとは「2eニュースレター」に寄稿された文章です。
つまり、英語圏では隠れディスレクシアはギフテッドの特徴のひとつ
ということになっています。
しかし・・・ここからは私の仮説ですが、
アメリカの2e教育で言われていることは、
日本では2eに限らず、ディスレクシア(英語)教育全般に多くのヒントをくれる
と実感しています。
「日本のディスレクシアは、中学に入って英語の学習が始まるまで
ディスレクシアに気付かずに過ごすことが少なくない」
という、日本語ならではの状況と関係しているような気がします。
なので、以下の記事で「2e/ギフテッドでディスレクシア」とある箇所は、
こと日本のディスレクシアの英語学習という面については、
「学校の勉強にそこそこ追いついている、問題行動のないディスレクシア」
と読み替えてよいと思います。
<要旨>
・2eでディスレクシアの生徒は、同級生と同じ成果を出すのに、2~3倍は努力している。
・自分の本当の語彙力で書けないので、作文の成績は悪い
・2eでディスレクシアかどうか、4分間の音読で判断する「読みアセスメント」
・書くことを支援するテクノロジー紹介
・2eでディスレクシアがどう感じているか、英作文のシミュレーション
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ギフテッドかつディスレクシア:2eについて
ケリ・サンドマン=ハーリー
皆さんにジェニーを紹介したい。中学2年生で成績は良好、いや優秀と言っていいくらいだ。先生たちによれば、人あたりがよく、決まりを守る、賢い生徒、ただ、ちょっと大人しいという。考えることは複雑で面白く、いつもベストを尽くそうとする努力家だ。
なぜ私は、彼女の話をしたいだろうか? 私がジェニーに関心を持つのは、彼女は先生達に「中の上の生徒」との印象を与えるために、同級生の2~3倍は努力しているからだ。
ジェニーは2e、つまりディスレクシア(とディスグラフィア)であり、かつ知的ギフテッドだ。
このことは、同級生が45分で終わる宿題に、彼女は3時間かかることを意味する。何かを書けば3~4回書き直すまでは誰にも見せない。書くときはスペルミスを避けるために短い単語を選ぶ。
そこまでしてもなお、彼女は自分の本当の語彙力のレベルで書くことができないので、作文の成績は悪い。
ジェニーの現在の良い成績は、ディスレクシアにもかかわらず(またはディスレクシアのおかげで)我慢を重ねたおかげだ。これはもちろん称賛すべきことだ。だが、ジェニーが同級生と公平に競えるよう対応策を取ってもらえていたら、彼女はもっと良い成績を取るはずだ。そうすれば、彼女は従来の方法で読み書きできることではなく、自分が実際に理解していることをアピールできるはずだ。
彼女は成績も悪くなく、問題行動もないが、だからと言ってIDEA(障害のある個人教育法)のアコモデーション(合理的配慮)が不要という意味ではない。ディスレクシアの生徒がどのように学んでいくのかを考える際には、私たちは「箱の外に出る」、つまり従来の枠組みにとらわれない発想が求められる。
◆音読による読み能力アセスメント
ジェニーは、表面的には読めているように見えるし、合理的配慮が必要には見えないが、細かく見れば彼女の苦労が分かる。
そのひとつとして、読みに伴う疲労に関するデータを集めてみたい。
ひとつの方法は、生徒に学年並みの内容の長文を、4分間読んでもらうというものがある。
・1分経過ごとに、現在読んでいる場所に印を付けていく。
・4分後、毎分ごとに読んだ語数を数える。
ディスレクシアの生徒の多くから、このような疲れ方をしている証拠が得られる:
正しく読めた単語の数
0:00-1:00 106語
1:00-2:00 96語
2:00-3:00 85語
3:00-4:00 45語
◆合理的配慮のテクノロジーを使って/使わずに書く
作文については、ジェニーは次のような感じの文章を書くだろう:
I went on a trip with my mom and dad.
(パパとママと旅行に行きました)。
特に問題はないように見えるかもしれない。
だが、実は彼女はこのように書きたかったとしたら?
Last weekend, my family and I visited the
Grand Canyon. It was beautiful with deep canyons and breathtaking views. I
enjoyed the time with my family and look forward to our next vacation.
(先週、家族とグランドキャニオンを訪れた。深い渓谷に息を呑むような景観がとても美しかった。家族で楽しい時間を過ごすことができた。次の休暇が楽しみだ。)
なぜ、彼女が本当はこう言いたかったと分かるのか。
それは、彼女の話し言葉と書き言葉の言語能力の差の大きさで分かるのだ。
つまり、2eの生徒の書くことの困難についてのデータを集めるもう一つの方法は:
1)まず、誰の助けも借りずに1人で何かを書いてもらう
2)書きたいことを言ってもらい、それを文字に起こしてあげる。
3) 1)と2)の語彙の選択、文法、概念の複雑さを比較する。
1)と2)のどちらが、その子の知的能力を表していると言えるだろうか。
◆支援テクノロジー
こうして、ディスレクシアかつ知的にギフテッドでもある生徒を、見抜くことができた。次に、試合のフィールドを公平にし、非ディスレクシアの同級生と同程度の努力で競争できる環境を整えることが求められる。
そのために導入できる支援テクノロジーの例:
オーディオブック
音声認識
ライブスクライブペン(Livescribe Smartpen)
キーボード入力を許可する
板書の内容を渡す
板書の撮影を許可する
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訳注:ライブスクライブペン。
ペンとノートがiPhone/iPad上のEvernoteに連携しており、
そのほかOCRとボイスレコーダーが付属しているとのこと。
これは使えるかも?! |
◆ディスレクシアが作文においてどう感じているか、
簡単なシミュレーション
ここで、皆さんにも簡単な課題を試していただこう。
今朝何をしたか、一瞬考えて書いてみてほしい。
ただし、次の言葉は使えない:a, the,
of, and, is, or。
(訳注:日本語だと、「は、が、を、の、と、や、~だ」あたりに相当)
これらは、これから書くことの中に一切使ってはならない。
書き終わってから、この記事の続きを読んでほしい。
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手ごたえはどうだろうか?
このシミュレーションを私は何度も行ってきたが、その経験から「この課題は簡単ではない」と皆さんが思っていると確信している。
実は「簡単」と最初に言ったのも実験の一部なのだ。実際に着手する前から「そんなの、何の問題もなくできるはず」と思い込んでほしかったので、あえてそう言ったのである。
おそらく、今あなたが書いた内容は、あなたの知的能力を正しく反映していないはずだ。
(訳注:英語では、a/theが正しくない文は、すごく稚拙に見えます)
もし、そんな状態で書いたものだけが、成績の基準になったとしたら…?
これがアメリカの学校現場の現実だ。つまり、アメリカの公教育制度は、生徒が持てる能力を完全に発揮していることを確かめる仕組みになっていない。だが、ディスレクシアの生徒が持てる能力を発揮できずにイライラが募れば、自尊感情を大いに傷つけることになる。
だが、これからは違う。これを読んでいるあなたは、ディスレクシアの生徒の気持ちを実感できたからだ。共に力を合わせて、ディスレクシアと知的ギフテッドの生徒に特徴的な「沈黙」の文化を変えることができる。
こうした生徒たちは公平を求めているだけで、それ以上は求めていない。そして、公平が必ずしも平等を意味しないことは、アメリカ人なら誰でも分かっているはずだ。
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最後のシミュレーションテストは、ディスレクシア的な英語の難所について
「やっぱり!」なことを言っていると思いました。
これについては改めます。