最近、アクセス数から察するに、当ブログはディスレクシア小学生の指導よりもディスレクシア大学受験生の指導情報を求めて来られる方が多いようです。ありがとうございます。
コスモ君(仮名)の指導内容について記事にすることは、当ブログをご覧になってご相談を頂いたご両親から「ディスレクシア指導のためになるなら」とご了承を頂いています。この場をお借りして改めてご両親に感謝申し上げます。
ご本人にも了承を得ています。しかし、「親子喧嘩の種になることは書かないでほしい」とも言われています。
受験生の気持ちを何より尊重したいので、当ブログに書くのは本人のモチベーションアップが主目的であること、特に、合格するまでは限定的な内容しか書けないことを、なにとぞご了承下さい。
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と、お断りした上で、ひっくり返るほど驚いたことについて今回は書きます。
ディスレクシア指導では、「好きなこと」を使うのが、とても効果的
という話です。
前々から、ディスレクシア指導には「興味のある分野」を利用することが非常に大事、とは聞いていました。
LD学会だったと思いますが、
・興味のある音源を使ってリスニングの練習をするとよい
(ハリーポッターが好きなら、そのCDを何度も聞くなど)
・キャリア(興味のあること)に関係する分野の語彙なら、すとんと入ることも少なくない
という指摘がありました。
名著『The Dyslexic Advantage』にも、
「ディスレクシア学習ではモチベーションが大きなカギになる」
とあったように記憶しています。
が、見つけることができず…近い内容をを引用します。
ディスレクシアの生徒には、その子専用にデザインされた、弱みを減らすことと強みを伸ばすことに同程度の時間をあてるアプローチが必要だ。読み書きの練習に加えて、本人が興味を持つことについて教えてくれるような教育環境が必要である。(p214)
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そんなことが頭にあったので、コスモ君に単語を覚えてもらうため、
速読英単語と同じ形のものを、彼が興味のある分野の文章で作ってみました。
彼が熱く語ってくれる分野は、彼も内容を熟知しており、
しかも質が良く、専門的すぎない内容の英文が手に入る分野です。
100語ほどの文章を、受験向けに単語を少し書き換えたり、
先週覚えられなかった単語を混ぜてみたりして、単語暗記用の文章を作りました。
冒頭の理由から、ここでそれをお見せすることはできません。。
しかし、単語テストをしてみたら、私も本人もびっくり!
コスモ君は抽象的な形容詞が特に覚えにくいのですが、
available、unfortunate、experimentalを、覚えることができたのです!
思い出す速度も、これまで駿台のテキストの単語を覚えてもらっていた時よりかなり速い、というか瞬時に出てきます。
好きな分野のパワー、恐るべし!
驚きはそれだけではないのです。
今回、この文章を送るときに、コスモ君には
「英単語を見て、日本語を言えるようにしてきてね」と伝えてありました。
しかし彼は、英文をノートに写し、覚えるべき単語をハイライトして、
自主的に全訳までつけてきたのです!!
それどころか、質問まで用意してきました!!
しかもその質問というのが、
With few resources availableのwithは主節にどういう意味でつながっているか(独立分詞構文の付帯状況以外の意味)という、
普通なら偏差値60あたりで出てくる質問なのです・・・
モチベーションの力はすごいです!
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英語の学習段階というのは、一般に、
1) 字を読んで、正しい音を出せる
2) 語を読んで、正しく発音でき、意味が分かる
3) 文を読んで、正しく構文を把握し、意味が分かる
4) 文章を読んで、正しく文脈を把握し、意味が分かる
という順に、段階を踏んで、高度化していくと考えられています。
後に行くほど難しいと考えられており、
特に、3)ができても、4)がなかなか出来ない受験生は多いものです。
しかし、ディスレクシアにおいては、
1)2)が非常に困難で、
3)は、1)2)に比べたらはるかに苦労が少なく、
4)は、3)が完了した段階で、同時に完了している。
よって、3)や4)が分かっている文章を使い、1)2)を強化することが可能。
ということのようです。
1)2)があまりに困難だと、
「この段階でこんなに読めないなんてお先真っ暗」
と絶望的になりかけますが(うちの子は今まさに1)で1年経過)
ここを抜けたら、その先の苦労はだいぶ少ないのだから!
と希望を持ってよいようです。
1)2)に教える側が辛抱強くつきあい、本人を絶望させないことが大切と感じます。
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これはいいと思った私は、コスモ君との別れ際に
「しばらく××の文章で単語帳を作るから、みっちり覚えてきてね。
単語を覚えたら、過去問もずいぶん読めるようになると思うよ」
と言ったところ、彼は思ってもみないことを言いました:
「××の文章と、××でない文章の、2本お願いします。
訳はつけないで下さい。ついそっちばかり読んじゃうから(笑)。
××でない文章も、覚えられると思います」
!!!
つまり、××が「突破口」となって、彼は何かをつかんだのだと思います。
覚えてみようというモチベーションが湧いたのかもしれませんし、
こういう風にしたら覚えられるという方法をつかんだのかもしれません。
実はわたくし、昨年の時点で、
「興味のある分野の単語なら覚えられる」という話を聞いたときには、
「ディスレクシアならまあそうかも。
でも、そういうスタンスだと、入試に必要な単語は覚えられないのでは?
残念ながら、入試対策には応用できないでしょう」と思っていました。
しかし!どうやら、興味のある分野は突破口、ひとつのステップであり、
そこから興味の劣る分野の単語暗記にも、広がっていけるようなのです。
来週までに50個の単語を覚えてくることになっているのですが、
どれくらい単語を覚えてきてくれるか、とても楽しみです!
ノートを見開きで1つの大きなページとして使用。 これは斬新で効果的! でも、「ノートは自分の脳にインプットするための道具なんだから、 きれいに書くのが大変なら、無理することはないよ」と伝えました |
~おまけ~
今週はもう一つ、驚くべきことがありました。
当ブログでも「ディスレクシアの利点」「隠れディスレクシア」など、何度も紹介している、The Dyslexic Advantageの著者から、メールが来たのです!
(ジャック・ホーナー教授の講演動画につけた字幕を見つけて連絡してくれました)
「「隠れディスレクシア」の記事は日本で大変反響がある、たぶん日本語ディスレクシアが英語を学ぶときに遭遇する問題を言い当てているから」と返事したら「日本のディスレクシアについてもっと教えて」と言われました(!)。
アメリカ西海岸の人らしく、とてもオープンでフラットで、パワーをもらいました。
そして、私がディスレクシア探究の旅において徹底的に前向きでいられる原動力の「The Dyslexic Advantage」を、必ずや翻訳して皆様にも読んで(聞いて)頂きたい!という思いを新たにしました。