ディスレクシア専用英語塾「もじこ塾」のブログです。 ●ディスレクシアとは:知能は普通だが、読み書きが苦手(読み間違いが多い、読むのが遅い、書き間違いが多い、読むと疲れやすい)という脳の特性 ●全体像の把握、物事の関係性・ストーリーの把握、空間把握、ifを考えるシミュレーション能力に長ける ●読み書きの困難は、日本語より英語に出やすい ●適切に対処すれば、読みの問題は表面上は克服される ●10人に1人程度いるというのが通説 ●家族性とされるが、ディスレクシアの表れ方は個人差が大きい もじこ塾は、ディスレクシアはこれからの社会に不可欠な才能、でも日々の学習では普通と違うアプローチが必要、という立場です。

2025-11-11

IDAによるディスレクシアの2025年版定義について(その3:超早期介入、ナディーン・ガーブ教授講演@LD学会)

この記事は、IDAによるディスレクシアの新定義についてまとめたものです。

その1(新定義と試訳)→

その2(用語解説その1)→

6. language and literacy support before and during the early years of education is particularly effective.

(就学前および就学初期の数年間における言語とリテラシーに関するサポートは、特に効果的である)

Xに特に大きな反響を呼んだのがこの部分。一部繰り返しになりますが、ここにまとめておきます。

↑「すべての人が読めるまで」。IDAのスローガン


まず、
before and during the early years of education
この部分の構文について。

「andは文法的に似たもの同士を結ぶ」という並列関係の法則が発動しますので、
beforeとduringが並列関係にあり、両方ともearly years of educationにつながっています。

before the early years of education(教育の初期の数年の前)

and

during the early years of education(教育の初期の数年の間)


つまり、「就学前および就学後の最初の数年間」と言っているわけですね。

「就学前にサポートを行う」という文言が「超早期介入」と言い換えられ、多くの人に強い印象を与えたようです。


しかし、ここは「就学前に読み訓練を行う」とは言っていないことに注意が必要です。そもそも「介入」(intervention)とは言っていません。

その前はlanguage and literacy support。
ここも先ほど同様、languageとliteracyが並列関係があるため、「言語のサポートとリテラシーのサポート」となります。

リテラシーとは何か・・・これも定義が必要でしょうが、
「読み書きそろばん」と言ったときの「読み書き能力」をイメージしてもらえると良いのかなと思います。read to learn(読むことを通じて知識を得る)ができる程度の力、という感じです。

「言語とリテラシーのサポート」は、
○話し言葉の環境を充実させる(会話をいっぱいする、言葉遊びをする、ことで語彙や音韻認識を向上させる
○読み聞かせ(文字には音が対応していることを伝える)、
○文字情報は面白くて役に立つと思える経験を積ませる(リテラシーの初歩)、
○自分の話が伝わったという経験を積ませる(話し言葉や言語への信頼感)

を言っているのだろうと、私は思いました。
「早くから文字を教え込む」という意味ではないと思います。

(なお、こういった経験のなかで文字に関心を示さなかった場合に、ディスレクシアを疑ってもいいかもしれません。)



☆  ☆  ☆

定義に話を戻すと、
この部分の文言は、ハーバード大学の脳科学者、Nadine Gaab(ナディーン・ガーブ)博士が強くプッシュしたから採用されたそうです。

ナディーン博士は、IDAでは真っ赤なパンツスーツでさっそうと登壇してこの部分を力説し、「ナディーンのおかげでこの文言が入った。ありがとう」と言われていました。

実は彼女、この登壇のわずか5日前に、日本のLD学会で講演されました。
IDAでは大ホールを満席にできるスーパースターですが、LD学会の聴衆は20人くらい。。ナディーン姐さんに申し訳なかったです。でも姐さんは意に介さず、講演は手抜きなし、私を含む聴衆の質問にも明快に答えてくれて、かっこよかったです。

LD学会の講演内容が、新定義のこの部分と重なるので、少し紹介しておきます。

・「ディスレクシアのパラドックス」。介入に最も適した時期を過ぎてから、ディスレクシアだと気づかれることが多いことを指す。

・4歳頃、脳の変化により、読むことの発達上のタスクが、話し言葉の獲得から音と文字の対応へとシフトする。この時期が介入に最適。

・4歳までは、文字指導ではなく、話し言葉の発達こそが読み能力の発達を支配している。

・家族にディスレクシアがいると、ディスレクシアのリスクは上昇する。だが遺伝子検査は意味がない。ディスレクシアは複雑で多因子的(multifactorial)であり、環境要因が遺伝的要因に影響を与えるので
・つい数週間前に発表した内容だが、早くも生後18ヶ月で、読み困難を引き起こす脳の変化がみられることがわかった。ここから、wait-to-fail(失敗を待つ)、すなわち問題が見えてから対処するのではなく、全員にスクリーニングを行い予防的介入を行う可能性が見えてくる。 

これは、18ヶ月で読み困難がすでに現れているという意味ではありません、18ヶ月はまだ話し始めたくらいです。それにしても、その頃にすでに脳の変化が現れているとは。。

・幼い脳は可塑性が高いので、幼い時期の介入には有意に効果がある

・「待てばやがて読めるようになる」ということは、ディスレクシアにはない

・ディスレクシアはIQとは無関係。視覚の問題ではない。読み能力が発達していると期待される年齢よりもかなり前から識別可能である。



超早期介入はもじこ塾の範囲外のテーマなので、他の方にぜひ推進してほしいです。

でも、くれぐれも、子どもの心を大事にしたものをお願いしたいです。



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