大人ディスレクシアに英語を教える(1)の続きです。
契約社員で社内翻訳者のKさん。
会社で怒られるのでなんとかしたいと、翻訳学校に来ました。
そこでの、訳抜けの多さと優れた大局観のギャップから、
「もしかして、それはディスレクシアでは・・・?」と指摘させて頂きました。
Kさんは翻訳クラス修了後、構文をとる授業を12回受講されました。
「なんとなく読んでいたのが減った。普段の読み方も変わってきている」
とのことでした。
構文強化が大事なのはディスレクシアに限った話ではないのですが、
お役に立てて良かったです。
最終回に、「視写を試してみて頂けますか?」と話して別れました。
2週間後、1対1でセッションを行いました。
開口一番、「視写、いいですね!」と、ノートを見せて下さいました:
【視写】
・帰宅後、1日15分。
・最初は構文の授業の教材。その後はJapan Timesから興味のある記事を使用。
・最初はあまり書けなかったし、時間が気になった。
・しかし、書きながらのほうが分かることに気がついた。
・書いていて楽しい。2週間たつと、書ける量も増えたし、誤字も減った。
・帰宅後これをしないと気持ち悪いほど。
「こんな単純な方法で変化を実感できるなんて!」
と喜んでおいででした。
ディスレクシアにこそ、視写は効くのですね。
非常に地道ですが、じわじわと根底から効くようです。
【音読】
視写した記事を音読したものを、スマホに録音してもらいました。
5分が目安です。
これについては、Kさんと
「単に自分が読むだけよりも、
手本となる音源を真似して言ったものを、録音したほうが効果的かも?」
という結論になりました。
サイトラ(英語を見て、日本語の訳を言ってもらう)も試してもらいました。
これは非常に脳を使うようで、かなり苦戦していました。
実はコスモ君(浪人生)とはもっぱらサイトラなのですが。個人差があるようです。
音読は、基本的には順調でしたが、
quarantine、Cleveland、launchが読めませんでした。
この間違い方にぴんと来て、
ジョリーフォニックスの基本42の音=文字対応とsilent eを教えました。
【ジョリーフォニックス】
実は、Kさんのセッションの目的のひとつには、
「フォニックスは、大人ディスレクシアにとって、ミッシングリンクなのかも?」
という仮説を試すことがありました。
大人ディスレクシアにフォニックスを教えれば、読むのが楽になるかも、、
と考えたのです。
Kさんは、ジョリーのルールを
「面白いですね!」とメモを取りながら聞いてくれました。
しかしそれは、大人だし、優しい人だからかも。。。
私の力不足もあり、その場では劇的な効果はありませんでした。
この件については、私がジョリーをマスターして、リベンジしたいです。
☆ ☆ ☆
翌週、2回目のセッションを行いました。
これは大変面白い時間に。まず互いの家族の変人自慢(?!)
ディスレクシアの家系はやっぱり変わり者が多いようで…
(祖父母世代は、凹凸があっても社会になじんでいるのはなぜでしょう?
いまの子供世代は本当に苦労しているのに)
それがひとしきり落ち着いたら、視写の効果について話して下さいました:
【視写】
視写を3週間、毎日15分続けた感想:
「書きながら読むことで、意味が分かるようになった。
書いてあることのイメージが湧く部分が増えてきた。」
これは大変良い、根底的な変化だと思います!
「ディスレクシアはビジュアル思考型」という主張が本当なら、
何かを理解するときというのは、必ず脳内でイメージしているはず。
つまり、視写によって、文章をイメージ化する力が高まったということです。
【音読】
視写したものを、音読しているそうです。
「自分の音読を録音して聞くのは、効果ありだと思います。
最初は慣れませんでしたが、だんだん抜けに気付くようになりました」
と指摘された上で、
今は、通訳訓練を応用した英語力強化クラスの教材を使っている
と教えてくれました。
このクラスが、大人ディスレクシアの英語力強化にもってこいなのです!
そのクラスでは、リプロダクション(英語の音声を聞いてから、同じ英語を言う)などを行っているそうです。
復習用として、英文スクリプト、ネイティブによる読み上げ音源、
リプロダクション時の自分の音声を録音したものをもらえるそうです。
まさにディスレクシア用英語音読に最適な布陣!
音源なしで音読してもらったところ、
出だしを中心に、ときどき抜けがありました。
(ディスレクシアの高校生にも、よく見られる傾向です。)
復習用セットを使って音読すれば、
こうした抜けを減らす訓練になるはずでは・・・と期待されます。
【黙読】
黙読もして頂きました。
*フォント
その前に…
よく言われることですが、多くのディスレクシアにとって
フォントによる見えやすさの差はかなり大きいようです。
KさんはSerif font(←こういう、文字の端に飾りがついているフォント)は
「全体的にぼわっと白く見えるので読みにくい」のだそうです。
ディスレクシアに人気なのはComic Sans Serifというフォントです。
Kさんも「このフォントが一番見やすい。単語がかたまりになって見える」
とのことでした。
(当ブログの題字に使っているフォントが、これに近いです)。
「字が大きいほうが見やすいし、
背景が緑のほうが見やすいとも分かったので
会社では最近はそうしています」とのことでした。
| 1行ずつ、指をあてて読む。 このフォントがComic Sans Serifです |
*全体像の知識
読んで頂く前に、この文章の背景と用途を伝えるとともに、
「こんな感じのことが書いてあるはずなので、その情報を教えて下さい」
という指示を出しました。
こういう、その文章の全体像にまつわる情報があったり、
読む目的をはっきりさせたりすると、
ディスレクシア的にはだいぶ気が楽になるようです。
ただ、Kさんは傍で見ていると拾い読みをしていて、
文意をイメージできている感じはありませんでした。
途中から指をあてて読んで頂きましたが、
そうしないと、行ったり来たりがかなり激しいです。
*いちごのショートケーキ
そこでピンときて、「いちごのショートケーキ」を試してみました。
本日最も劇的な効果があったのはこれでした!
これは、
「ディスレクシアは視点がさまよってしまうのが原因なので、
視点を固定できるようになれば読めるはず」
というDavis式の教えにのっとった、視点固定法です。
いちごのショートケーキ終了後、同じ文章を見ると、「おおっ」という表情で、
「私はこれまで、目だけ動いて上滑りになることが多かったんです。
だから、すごく速く読み終わってしまうんです。
ここに視点を固定すると、まわりが気にならなくなりました(!?)
1文ずつ見えます。これならしっかり読めます」
文章の上を視線が上滑りになってしまう人にはお勧めです!
☆ ☆ ☆
Kさんとは、2月に再会を約束しました。
それまでの間、視写とリテンションを毎日続けてもらい、
その効果を報告してもらうことになりました。
読めば読むほど脳は変わる。たとえディスレクシアでも
という記事を春に訳しましたが、
これは大人ディスレクシアでも言えることのようです。
地道に読み書きの訓練を続ければ、
大人ディスレクシアの英語の読み能力も必ずアップする。
そう信じます!!
Kさんとのやりとりで一番印象的だったのは、
「適性が分かって楽になりました。
母と『気付いてもらってよかったね』と言い合いました。
もうムリに翻訳者は目指しません(笑)」
という発言です。
大人は、苦手なことは人にありがたく頼って、
その分得意なことで世の中に貢献したいですよね・・・。
そして、「毎日視写を続けます!」と言う様子からは、
訳抜けが手抜きに見えた数カ月前(その節は大変失礼しました)
からは想像できないほどの、生産的で前向きな様子が伺えて、
大変うれしかったです!