ディスレクシア専用英語塾「もじこ塾」のブログです。 ●ディスレクシアとは:知能は普通だが、読み書きが苦手(読み間違いが多い、読むのが遅い、書き間違いが多い、読むと疲れやすい)という脳の特性 ●全体像の把握、物事の関係性・ストーリーの把握、空間把握、ifを考えるシミュレーション能力に長ける ●読み書きの困難は、日本語より英語に出やすい ●適切に対処すれば、読みの問題は表面上は克服される ●10人に1人程度いるというのが通説 ●家族性とされるが、ディスレクシアの表れ方は個人差が大きい もじこ塾は、ディスレクシアはこれからの社会に不可欠な才能、でも日々の学習では普通と違うアプローチが必要、という立場です。

2017-11-12

IDA@アトランタ報告(その3)

スタニスラス・ドゥアンヌ教授の講演は,本の内容と重なるところも多かったのですが,非常~に示唆に富むものでした。これについては改めてまとめることにして,それ以外で印象に残った発言を書いておきます:

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・「科学的には,読み方をどう教えればいいかは分かっている。
どうやってそれを教育の場に転換すればいいのかは,まだ分かっていない」

IDAのスーパースター,マリアンヌ・ウルフ教授による,ドゥアンヌ教授を紹介するスピーチの一節。
ディスレクシアの原因遺伝子もつきとめられつつあるし,ディスレクシア脳と定型脳の違いも解明されつつある。そういった研究成果を,どのように読み教育に落とし込んでいくかを,我々は一丸となって考えていかなければならない」…という内容でした。

このResearch to Practice(研究を実践に転換する)は,今回あちこちで聞かれた,IDAの目下のテーマのひとつのようです。

教師には,脳科学の成果を,本当に細かく具体的な授業のコツに活用しようとする姿勢が求められています。

また,どこに行っても,最先端の研究者,現場の教師,そして親や当事者が,完全に対等な立場で語っているのは,アメリカの良い部分が強く出ていると感じました。
日本の関係者も,この点は見習う必要があります。最大のハードルかもしれませんが…

マリアンヌ・ウルフ教授の発言にはもう少し続きがあって,
「同じ考え方をする人たちと,完璧よりも進歩を目指して進んでいく必要がある。なぜなら読めるというのは貧困を絶つ最大の道だから」。
脳科学の研究者が社会改良の視点を持っている点も,IDAの大きな特徴です。

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・「支援と配慮は同時並行であるべき:読み方を学ぶ努力をすることと,読めないことを受け入れてもらうことは,手に手を携えて進める必要がある」(remediation and accommodation should go hand in hand)

「Never Too Late!(遅すぎるということはない)」という題名にひかれて軽い気持ちで参加した発表。行ってみたら,スピーカーは今日が90歳(!!)の誕生日,ディスレクシア教育を1955年から行ってきたという,IDAにおけるレジェンドのようなお方でした。
古き良きアメリカという感じの,白髪を美しくセットして,ピンクと黒のツイードのスーツを着こなしたおばあちゃんです。
受刑者にゼロから読み方を教えた話にはじまり,一言一言が重く,胸に迫るものがありました。

このおばあちゃんのフォニックスの教え方は,非常にリズミカルなアナリティック・フォニックスでした
(ブレンディングはdoesn't make sense to them[彼らには通じない]と言っていました)。
成人で,すでに話し言葉を運用している場合は,単語のなかから音韻を取り出すほうが楽なのでしょう。

まるでジョリーのダイグラフ(ch,oo,orなど,2文字で1つの音になるレターサウンド)のように接尾辞や接頭辞を扱っていたこと,空書き(air-writingと言います)をすること,母音に限っては(無意識なのか)ジョリーのアクション風のものをつけていること,文字を教える順番もabcではなく,頻度と難度に応じた独自のものを採用していることなど,日本人中学生に教えるにあたり,いろいろ参考になる内容でした。

生徒は本物の本から読まないといけない。たとえほんの少しの単語しか読めなくても。教師が残りを読んであげればいいのです
「『読み聞かせてもらう経験がなければ,自分で読もうと思うこともなかっただろう』(ある受刑者の言葉)。録音を聞くのと読んであげることは違います。読んであげることは,読解力と読もうとする気持ちを高めるための最良の方法。録音を聞いてもこれは起こりません。ある程度読めるようになったら,オーディオブックも良いのですが」

テクノロジーに逆行するような発言ですが…ことディスレクシア読み指導の最初の段階においては,教師と生徒が,呼吸をあわせて,ひとつのテクストに向き合うべきだと言っているのだと感じました。

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今回,よくわかったのは
アメリカ人も,ディスレクシアをめぐって,またディスレクシアを含む子供たちに英語をどう教えるかをめぐって,模索を続けている」ということです。
たとえば・・・「フォニックス」と一口に言っても,どういうフォニックスがベストなのかは群雄割拠,まだ誰も天下を取っていないようです。日本語にたとえれば五十音表が定まっていないどころか,小1の国語の教科書が乱立している状態( ゚Д゚)

「音韻認識が弱いと読字困難が出やすいこと,また音韻認識を伸ばすことがディスレクシアにとって効果的だという点については,エビデンスは多々あるが,多感覚が効果的という点についてはエビデンスがほとんどない」という仰天発言も,複数個所で聞きました。
でもオートン協会は多感覚は大事だとうたっているのですが・・・しかし多感覚の定義は実はあいまいなようで・・・(二転三転)

さらには,ディスレクシアの割合も,アメリカでも定かではないことも明らかに。
「スペクトラムなので,ここからがディスレクシアだという線引きが難しい」
とのことでしたが,多くとると20%,少なくとると5~6%とのことでした。

ここにて時間切れ。日本に帰ります!

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