ディスレクシア専用英語塾「もじこ塾」のブログです。 ●ディスレクシアとは:知能は普通だが、読み書きが苦手(読み間違いが多い、読むのが遅い、書き間違いが多い、読むと疲れやすい)という脳の特性 ●全体像の把握、物事の関係性・ストーリーの把握、空間把握、ifを考えるシミュレーション能力に長ける ●読み書きの困難は、日本語より英語に出やすい ●適切に対処すれば、読みの問題は表面上は克服される ●10人に1人程度いるというのが通説 ●家族性とされるが、ディスレクシアの表れ方は個人差が大きい もじこ塾は、ディスレクシアはこれからの社会に不可欠な才能、でも日々の学習では普通と違うアプローチが必要、という立場です。

2019-11-13

IDA@ポートランド,その3(PPR:反応の悪い生徒,tDCS:脳に微弱電流を流す,IDAに見られないもの)



帰国しました!昨日から授業を再開しています。
いろいろご連絡が遅れていて申し訳ありません・・・順次お返ししてまいります。

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「介入への反応が悪い生徒(Persistently Poor Responders:PPR)」
専用の指導をしてもなかなか伸びない生徒に関する発表がありました。
Non-respondersなど、いくつかの呼び名があるようです。

・オートン・ギリンガム(ディスレクシア専用指導)を3年行っても、効果がなかった
・週4日×2年、全230時間のプログラムもあまり効果なし
・・・など、胸が痛くなるプロフィールです。

・PPRは、音韻認識は持てるが、単語はなかなか読めない
→△音韻認識よりも、〇1つの単語をデコーディングする能力、
 さらには◎流暢性のほうが、PPRの指標になる

・ADHDの併発が少なくないが,ADHD自体はPPRの指標にはならない

・IQとは無関係。(IQと介入への反応に相関関係はない)

・PPRの脳を見ると、右脳のある部位がそうでない生徒より活性化している。
なぜそうなのかは不明。代償的なのかもしれない。

・PPRほど、訓練をしっかり受けた教師が担当する必要がある。

・記憶定着をはかるため、時間をかけて粘り強く、反復と練習を繰り返す必要がある。
訓練は、より長期的に行う必要がある。

・より明示的(explicit)な説明が必要
※別の発表で、explicitとは
「言葉で説明すること」ではなく、「手本を示すこと」だという指摘もありました。

・読む単語が難しくなるにつれ、PPRと非PPRの差は開いてしまう。でもPPRも成長はしている。how they are learningではなくwhat they are learningを見るべき(成長のスピードではなく、何ができるようになったかに注目すべき)

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生徒の顔が浮かぶ発表でした。もじこ塾にも何人か、フォニックスの表がなかなか覚えられない生徒や、フォニックスの表は言えても単語が読めるようにならない生徒がいます。

このような生徒は「音楽の耳」が良い気がします。ふわっと耳コピできて、発音がとても良いのですが、「読む」(デコーディング)にはなかなか至らない・・・

字を前にしたときの諦めが良すぎる印象がなくもないのですが,「こういう子たちも訓練の場に足を運んでいるということは,治療を拒絶しているわけではない」との指摘もありました。そうですよね。

日本語ネイティブとしては,PPRが英語にチャレンジするのなら、まず簡単な会話ができることを目標にすべきと思います。
また、限られたリソースを,英語よりも日本語に割いたほうがいいと個人的には思っています。日本で生きていくなら、日本語が読めることは大事です。

一方で、もじこ塾の助手にはPPRが複数いると思うのですが、助手業務に入るなかで、みな少しずつ英語ができるようになってます。
ディスレクシアであっても、英語はずっと続けていればちょっとずつのびることを体現しています。



◆tDCS:脳に微弱電流を流しながら訓練をすると、読字能力が上がる?!

立ち見がどんどん集まり、関心の高さが伺えた発表でした。
tDCSは検索すると、「経頭蓋直流電気刺激」と訳せるようです。

「左脳、耳の後ろあたりに単語の視覚認知に関係する部位がある。
ここにApple Watchの10%程度の微弱電流を流し、刺激しながら読み訓練を行うと、読字のスピードが向上するという実験結果が(読字の精度には変化はなかった)。
ニューロン活動を引き起こすには微弱すぎるはずだが、neurons that fire together wire together(同時に発火するニューロンは連結している)なので、何らかの因果関係があるのかもしれない。
何語に効くか、適した年齢、左脳に陰極をあてているので陽極をどこにあてるか(脳の別部位、肩etc)、どんな訓練とセットにするかなどを現在実験中。」


◆IDAで見られないもの

1) UDフォント
日本ではUDフォントの普及が進んでいますが、IDAではUDフォントという概念がないようです。「字と字のスペースをあければ同じ効果が得られる」という指摘も・・・視覚処理の困難には、あまり関心がないようです。
パワポでも印刷物でも、けっこう見にくいオサレなフォントを使うケースがあったり。
UDフォントがみられないのは残念です。

2) ASDへの言及
IDAでは「ディスレクシアの数割はADHDを併発する」は時折言及されるのですが、ASDの話題はまったく出ません。
ともすればLD学会などが、行動面の問題に乗っ取られがちなのとは対照的です。
(#さらに言うと、「発達障害」(developmental disorder)という言葉はまったく聞きません。)

ランドマーク(ボストン近郊にある、アメリカの有名ディスレクシア専用学校)のパンフレットは、「当校に合わない人」としてASDを挙げています。
ここから考えるに、「ディスレクシア」を名乗る団体は、ASD(由来の読み書き困難)を意識的に排除しているのかもしれません。

アメリカではコミュ障は生きにくく,別に考える必要があるのだろうと,今回感じました。
とにかく,どんどん自分から声を上げて,会話を仕掛けていくことが要求される社会のようです。楽しいけど1日終わると疲れます。。


3) 東洋人
何度も書いていますが,IDAには東洋人がいません。
これについては,その1にも書きましたが,ずっと考えてます。
まとまらないので,まずはここまでをアップします。

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