ディスレクシア専用英語塾「もじこ塾」のブログです。 ●ディスレクシアとは:知能は普通だが、読み書きが苦手(読み間違いが多い、読むのが遅い、書き間違いが多い、読むと疲れやすい)という脳の特性 ●全体像の把握、物事の関係性・ストーリーの把握、空間把握、ifを考えるシミュレーション能力に長ける ●読み書きの困難は、日本語より英語に出やすい ●適切に対処すれば、読みの問題は表面上は克服される ●10人に1人程度いるというのが通説 ●家族性とされるが、ディスレクシアの表れ方は個人差が大きい もじこ塾は、ディスレクシアはこれからの社会に不可欠な才能、でも日々の学習では普通と違うアプローチが必要、という立場です。

2025-03-13

IDA24・その3(雑感)

書いた状態で半年も放置していました。。とりあえずアップしておきます。

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2024年のIDA(国際ディスレクシア協会)年次総会に行ってきました。

振り返り、その3です。


今年のIDAは、

「フォニックスや音韻認識が大事なことは、もうみんな分かったよね、
なのでその先に行くよ」
という雰囲気でした。
フォニックスや音韻認識・音素認識以外の要素の話が多かったです。

◆IDAでよく言及された概念

1) Reading Rope(リーディングロープ)
前回のIDAで初めて見た気がします。読むというのは単語レベルの読字能力と、文や文章に関するもう少し幅広い知識が、あざなえる縄のように組み合わさることで、強固な文章読解力になる、ということを示した図です。

Reading Ropeで検索すると、最近は色つきのものも出てきます。


2) Structured Literacy(ストラクチャード・リテラシー)

アンチフォニックス派に対抗して編まれた、ディスレクシア(そして他の生徒にも)有効な、言語教育の初歩の原則(principle)のこと。
2014年に制定され、今回バージョンアップして正式にお目見えしたらしいです。
https://app.box.com/s/mvuvhel6qaj8tghvu1nl75i0ndnlp0yz


何を教えるか(the "What"):
フォニックス(表ではphonemes⇔graphemes)、morphology、音節、など、さまざまな要素が含まれています。
それらの教え方(the "How"):
明示的・体系的・多感覚・積み上げ式・ヒントを出す・データ重視、絞ったフィードバック、双方向、などの要素が含まれています。

3) SOR (Science of Reading)
Structured Literacyは、読み能力を向上させる効果があると科学的に実証されたことがらに基づいて編まれたものです。Structured Literacyの基盤となるこの「科学的な読みの科学」を、Science of Readingと呼びます。脳科学、心理学、教育学などの研究からなります。
SORの真の敵は、"非科学的"な言語教育です。

そのもとになったのが、2年前に発表されて大きな反響を呼んだこちらのポッドキャストです。2022年、コロナ生活真っ最中のころに公開され、私も日本で聞いて衝撃を受けました。
衝撃はアメリカでも同様だったようで、今回のIDAでも「Emily Hanfordの功績は~」と著者のジャーナリストをたたえる発言が何度かありました。

アメリカで80年代から90年代にかけてアンチフォニックスが隆盛を極めた結果、人口の3割がまともに読めなくなってしまったこと、アンチフォニックス派教材が巨大な利権の渦巻く一大市場であること、支持政党とも関係する話であることが暴かれています。

アンチフォニックス派は多少のフォニックスを取り入れた上で、自らを「Balanced Literacy」(バランスド・リテラシー派)と呼ぶようになりました。



話をIDAに戻し、今回は脳科学の話が少なかったのは残念。
IDAの面白さは、現場の教師と脳科学者が対等に議論するところにあるので・・・
来年以降に期待したいです。


◆3日目、フィンランドの大学教授の講演は、内容以上に聴衆の様子が印象的でした。

アフリカの学校向けにフォニックス?のアプリを開発した人だそうですが、

男子のほうが女子よりも字が汚いし、ゲームが好きだし、ゲームが好きすぎて本に向かえなくなっている・・・と話したあたりから、会場が白けてきました。

途中でどんどん人が出て行き、予定時間より早く講演が終わってしまうありさまでした。

この様子から、IDA出席者(白人女性。たぶん多くが教師)の考え方が、少しわかった気がしました。

・教育の場でのテクノロジー利用には案外、否定的です。

・男女の差を明確に示すことには、触れたくない雰囲気を感じました。

・ゲームに対する考え方も、かなり保守的な気がします(これは、日本が進みすぎているのかもしれません)


講演者のメッセージは、個人的には面白く聞きました:

「読めるということは、書き言葉と話し言葉がつながっているということ」

「アフリカには面白い読み物がないから、楽しみのために読む経験がない。その結果、読解力が育たない」

「読解力を育てるためには、能動的な読み、キーワードを見つける能力が必要。面白そうなところを飛ばし読みする経験はその最初の一歩になる」

「自分はアプリを開発してアフリカで採用してもらったが、むしろその国のPISAスコアは下がってしまった。たぶんそのアプリだけで十分だと思われてしまったのだが、それではダメ。娯楽で読む経験も必要」

話せば話すほど会場が白けるのを感じながら、アメリカには英語のあらゆる娯楽的コンテンツが溢れかえっているので、面白い読み物がない状況が想像できないのかもと思いました・・・

また、日本ではディスレクシアの小学生に対し「マンガでかまわない、とにかく活字を読みましょう」と勧められることがありますが、その効果を裏付けていると感じました。




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