ディスレクシア専用英語塾「もじこ塾」のブログです。 ●ディスレクシアとは:知能は普通だが、読み書きが苦手(読み間違いが多い、読むのが遅い、書き間違いが多い、読むと疲れやすい)という脳の特性 ●全体像の把握、物事の関係性・ストーリーの把握、空間把握、ifを考えるシミュレーション能力に長ける ●読み書きの困難は、日本語より英語に出やすい ●適切に対処すれば、読みの問題は表面上は克服される ●10人に1人程度いるというのが通説 ●家族性とされるが、ディスレクシアの表れ方は個人差が大きい もじこ塾は、ディスレクシアはこれからの社会に不可欠な才能、でも日々の学習では普通と違うアプローチが必要、という立場です。

2014-10-29

大人ディスレクシアに英語を教える(2)構文、視写、音読、そして「いちごのショートケーキ」が効果あり


契約社員で社内翻訳者のKさん。
会社で怒られるのでなんとかしたいと、翻訳学校に来ました。
そこでの、訳抜けの多さと優れた大局観のギャップから、
「もしかして、それはディスレクシアでは・・・?」と指摘させて頂きました。

Kさんは翻訳クラス修了後、構文をとる授業を12回受講されました。
「なんとなく読んでいたのが減った。普段の読み方も変わってきている」
とのことでした。
構文強化が大事なのはディスレクシアに限った話ではないのですが、
お役に立てて良かったです。

最終回に、「視写を試してみて頂けますか?」と話して別れました。


2週間後、1対1でセッションを行いました。

開口一番、「視写、いいですね!」と、ノートを見せて下さいました:



【視写】
・帰宅後、1日15分。
・最初は構文の授業の教材。その後はJapan Timesから興味のある記事を使用。

・最初はあまり書けなかったし、時間が気になった。
・しかし、書きながらのほうが分かることに気がついた。
・書いていて楽しい。2週間たつと、書ける量も増えたし、誤字も減った。
・帰宅後これをしないと気持ち悪いほど。

「こんな単純な方法で変化を実感できるなんて!」
と喜んでおいででした。
ディスレクシアにこそ、視写は効くのですね。
非常に地道ですが、じわじわと根底から効くようです。


【音読】
視写した記事を音読したものを、スマホに録音してもらいました。
5分が目安です。

これについては、Kさんと
「単に自分が読むだけよりも、
手本となる音源を真似して言ったものを、録音したほうが効果的かも?
という結論になりました。

サイトラ(英語を見て、日本語の訳を言ってもらう)も試してもらいました。
これは非常に脳を使うようで、かなり苦戦していました。
実はコスモ君(浪人生)とはもっぱらサイトラなのですが。個人差があるようです。

音読は、基本的には順調でしたが、
quarantine、Cleveland、launchが読めませんでした。
この間違い方にぴんと来て、
ジョリーフォニックスの基本42の音=文字対応とsilent eを教えました。


【ジョリーフォニックス】
実は、Kさんのセッションの目的のひとつには、
「フォニックスは、大人ディスレクシアにとって、ミッシングリンクなのかも?」
という仮説を試すことがありました。
大人ディスレクシアにフォニックスを教えれば、読むのが楽になるかも、、
と考えたのです。

Kさんは、ジョリーのルールを
「面白いですね!」とメモを取りながら聞いてくれました。
しかしそれは、大人だし、優しい人だからかも。。。
私の力不足もあり、その場では劇的な効果はありませんでした。
この件については、私がジョリーをマスターして、リベンジしたいです。


☆  ☆  ☆

翌週、2回目のセッションを行いました。
これは大変面白い時間に。まず互いの家族の変人自慢(?!)
ディスレクシアの家系はやっぱり変わり者が多いようで…
(祖父母世代は、凹凸があっても社会になじんでいるのはなぜでしょう?
いまの子供世代は本当に苦労しているのに)

それがひとしきり落ち着いたら、視写の効果について話して下さいました:

【視写】
視写を3週間、毎日15分続けた感想:
書きながら読むことで、意味が分かるようになった。
書いてあることのイメージが湧く部分が増えてきた。

これは大変良い、根底的な変化だと思います!

ディスレクシアはビジュアル思考型」という主張が本当なら、
何かを理解するときというのは、必ず脳内でイメージしているはず。
つまり、視写によって、文章をイメージ化する力が高まったということです。


【音読】
視写したものを、音読しているそうです。
自分の音読を録音して聞くのは、効果ありだと思います。
最初は慣れませんでしたが、だんだん抜けに気付くようになりました

と指摘された上で、

今は、通訳訓練を応用した英語力強化クラスの教材を使っている
と教えてくれました。
このクラスが、大人ディスレクシアの英語力強化にもってこいなのです!

そのクラスでは、リプロダクション(英語の音声を聞いてから、同じ英語を言う)などを行っているそうです。
復習用として、英文スクリプト、ネイティブによる読み上げ音源、
リプロダクション時の自分の音声を録音したものをもらえるそうです。
まさにディスレクシア用英語音読に最適な布陣!


音源なしで音読してもらったところ、
出だしを中心に、ときどき抜けがありました。
(ディスレクシアの高校生にも、よく見られる傾向です。)

復習用セットを使って音読すれば、
こうした抜けを減らす訓練になるはずでは・・・と期待されます。


【黙読】
黙読もして頂きました。

*フォント
その前に…
よく言われることですが、多くのディスレクシアにとって
フォントによる見えやすさの差はかなり大きいようです。
KさんはSerif font(←こういう、文字の端に飾りがついているフォント)は
全体的にぼわっと白く見えるので読みにくい」のだそうです。

ディスレクシアに人気なのはComic Sans Serifというフォントです。
Kさんも「このフォントが一番見やすい。単語がかたまりになって見える
とのことでした。
(当ブログの題字に使っているフォントが、これに近いです)。

「字が大きいほうが見やすいし、
背景が緑のほうが見やすいとも分かったので
会社では最近はそうしています」とのことでした。


1行ずつ、指をあてて読む。
このフォントがComic Sans Serifです

*全体像の知識
読んで頂く前に、この文章の背景と用途を伝えるとともに、
「こんな感じのことが書いてあるはずなので、その情報を教えて下さい」
という指示を出しました。
こういう、その文章の全体像にまつわる情報があったり、
読む目的をはっきりさせたりすると、
ディスレクシア的にはだいぶ気が楽になるようです。

ただ、Kさんは傍で見ていると拾い読みをしていて、
文意をイメージできている感じはありませんでした。
途中から指をあてて読んで頂きましたが、
そうしないと、行ったり来たりがかなり激しいです。

*いちごのショートケーキ
そこでピンときて、「いちごのショートケーキ」を試してみました。
本日最も劇的な効果があったのはこれでした!

これは、
「ディスレクシアは視点がさまよってしまうのが原因なので、
視点を固定できるようになれば読めるはず
というDavis式の教えにのっとった、視点固定法です。

いちごのショートケーキ終了後、同じ文章を見ると、「おおっ」という表情で、
「私はこれまで、目だけ動いて上滑りになることが多かったんです。
だから、すごく速く読み終わってしまうんです。
ここに視点を固定すると、まわりが気にならなくなりました(!?)
1文ずつ見えます。これならしっかり読めます」

文章の上を視線が上滑りになってしまう人には
お勧めです!


☆  ☆  ☆

Kさんとは、2月に再会を約束しました。
それまでの間、視写とリテンションを毎日続けてもらい、
その効果を報告してもらうことになりました。

読めば読むほど脳は変わる。たとえディスレクシアでも
という記事を春に訳しましたが、
これは大人ディスレクシアでも言えることのようです。
地道に読み書きの訓練を続ければ、
大人ディスレクシアの英語の読み能力も必ずアップする。
そう信じます!!




Kさんとのやりとりで一番印象的だったのは、
適性が分かって楽になりました。
母と『気付いてもらってよかったね』と言い合いました。
もうムリに翻訳者は目指しません(笑)」
という発言です。

大人は、苦手なことは人にありがたく頼って、
その分得意なことで世の中に貢献したいですよね・・・。


そして、「毎日視写を続けます!」と言う様子からは、
訳抜けが手抜きに見えた数カ月前(その節は大変失礼しました)
からは想像できないほどの、生産的で前向きな様子が伺えて、
大変うれしかったです!



6 件のコメント:

  1. フォントとあったので、ちょうど今日発見したサイトをお送りします。
    http://www.dyslexiefont.com/en/dyslexia-font/
    またじっくりとブログも読ませていただきますね~~~。

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    1. うお。ディスレクシアフレンドリーな割り付けの記事もあって参考になりますね。ダウンロードしてみます。
      ありがとうございます!

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  2. 大人ディスレクシアに関する連載、興味深く読んでいます。
    ・傍目からは「やる気がないように見えてしまう」こと。逆に言えば周囲がきちんと気づいていれば、そうは見えないこと。
    ・ディスレクシアという概念に気づくことで、対処ができること。(気づかなければならない)
    ・適切な訓練によって、ディスレクシアを「克服」とはいかぬまでも「目立たなくする」ことができること。

    ディスレクシアという言葉を、他に替えても適用できそうな気がします。大人の教育のポイントなのかもしれません。
    まとまりませんが、思いつくままに。。。。

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    1. お待ちしてました(笑)
      ご指摘の通りだと思います。Kさんとは「将来の幹部候補を輩出するような大学では発達特性の授業を設けるべきだ!」と盛り上がりました。
      あるいは、管理職研修でそういったこと教えるのも一案だと思います。
      でも何より、本人が気付くことが一番の近道ですよね。。

      あと、大人特有の問題として、大人は子供以上に「周囲に期待される役割を演じる」傾向が強い点があると思います。だから周囲も本人も気付きにくいのではと。
      Kさんの「ダメキャラ」から勉強熱心な人への変貌ぶりは本当に見事でした。

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  3. 初めて書きます。いつもブログを読ませて頂いてる東京在住の23才の者です。
    ディスレクシアという言葉を最近しったのですが、幼い頃からの自分とすごく当てはまるので驚きました。読み書きが苦手で、耳からの情報がうまく処理できず言い間違えや聞き間違えが日常的にあり、社会人になってますます日本語コンプレックスが強くなりました。自分の意図がうまく伝わらず、誰かが仲介してくれるのですが、自分としては仲介者と同じこと言ってるつもりなので、ますますもどかしい思いをすることが多いです。

    たくさん書いてしまったのですが、私がご相談したくメールしたのは、英語学習についてです。高校生のころから海外で生活したく英語を身につけたいと思っているのですが、どうもうまく学習ができません。もじこさんのブログを読ませて頂いてから、以前から悩んでいたADD傾向とディスレクシアが少し原因にあるのかなと考え始めました。集中した経験もなく、優勢順位をつけるのが下手な所など、問題が多々あるのですが、母国語に自信がない私ですが、何か私のような発達障害の気がある者に適した英語習得の方法があれば、アドバイスをお願いします。
    変な文章になってしまいますが、よろしくお願い致します。

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  4. はじめまして。
    外国で生活したいなら、ぜひ一度、1ヶ月くらい行ってみることをお勧めします!!発達凹凸がある人にとっては、外国人として暮らすほうがラクだときっと感じると思います。
    英語ができないのに…と悩む必要はありません。本当です。日本では英語の読み書きしか評価されていないのですから、そのことは忘れて、まずは現地に行ってみて下さい。ディスレクシアなら耳がいいし、空気も読めるし、独特の人なつっこさがあるので、すぐに「聞く・話す」ができるようになります。
    「読む・書く」も伸ばしたいなら、それから考えればいいです。

    身内の話で恐縮ですが、私の父はディスレクシアです(言動が長嶋茂雄にそっくりなタイプ)。仕事人生の全部が海外でした。英語は書けばスペルミスだらけ、活字はもちろん標識などもあまり読んでませんでしたが、交渉力は抜群、好奇心旺盛で世界のどこに行っても現地になじみ、ガードマンや掃除のお兄さんなど移民労働者と特に仲良くしていました。あれほど会話能力が高い人(=自分の希望を英語で伝えられる人)を見たことがありません。
    しかし父は英語で疑問文がつくれないほど、文法が弱いのです!!
    そして最近では「緩和ケア」を「棺桶屋」と間違えるなど、聞き間違いは日常茶飯事です(笑)
    このように会話はとんちんかんなのですが、年々、年齢を超越してきました(→ディスレクシア老人の特徴)。

    父は、とにかく外国に行くことで英語を覚えたと思います。
    なのでnicoさんにもそれをお勧めします。

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