ディスレクシア専用英語塾「もじこ塾」のブログです。 ●ディスレクシアとは:知能は普通だが、読み書きが苦手(読み間違いが多い、読むのが遅い、書き間違いが多い、読むと疲れやすい)という脳の特性 ●全体像の把握、物事の関係性・ストーリーの把握、空間把握、ifを考えるシミュレーション能力に長ける ●読み書きの困難は、日本語より英語に出やすい ●適切に対処すれば、読みの問題は表面上は克服される ●10人に1人程度いるというのが通説 ●家族性とされるが、ディスレクシアの表れ方は個人差が大きい もじこ塾は、ディスレクシアはこれからの社会に不可欠な才能、でも日々の学習では普通と違うアプローチが必要、という立場です。

2015-03-17

ディスレクシアでADHDなコスモ君の合格体験記(1)

この記事が書けて、しみじみとうれしいです。
合格するまで、まとまったことを書くのは控えようと思っていたら、
書くべきことが膨大になってしまいました。
ディスレクシア受験指導の参考になるように書きたいです。
今回は、個別指導を始める前のことと、お母様の手記です。
それでは、行きます。

☆  ☆  ☆

ADHDでディスレクシア(書くのが遅い系)で、
圧倒的な音楽の耳を持ち、遊戯王とセカオワとガンダムが好きなコスモ君は、
このたび、某総合大学の理工系学部に合格しました。
これまでのことは→

現浪通じて初めて完答できた試験で、唯一の正規合格を果たしました。
他に1つ補欠合格。これより下のランクの滑り止めは全敗です。

センター英語は、現役60点台→浪人100点強(模試での最高は120点台)
合格した大学の点数開示によると英語は4割、数物は9割の出来でした。
「理系は理系科目が合否を分ける」を地で行く展開です。
(英語担当としては、ちょっと申し訳なく思います…)

~  ~  ~

コスモのお父様から初めてご連絡を頂いたのは、高3の秋でした。

県立二番手高校入学後から何かがおかしいと親が感じ始め、
ほうぼうに相談してADHDでディスレクシアとの診断を受けた、
学校の成績はどん底だが、学校に相談しても
単なる勉強不足だと言われ取り合ってもらえなかった、
予備校系の個別指導塾に行っているが成績は伸び悩んでいる、
どうしたらよいか…といった内容だったと記憶しています。

浪人が決定した3月に、お母様と本人と初めて会いました。
初対面のコスモ君は「ぼわ~っとしている」印象でした。

その日はお母様ともっぱら話をしました。

行政の発達障害相談室にも行き、有名病院での診断も受けていて、
私などより、よほど手を尽くしておられました。

そして、高校側の心ない言葉に、傷つき疲れ切っていました(ノД`)。
本人もさぞかし傷ついただろうと思うのですが、
それに劣らず、お母さんも精神的に八方塞がりの状況でした。

本人にセンターの問題を少し読んでもらったところ、
第2問(文法)の選択肢の単語もまともに読めませんでした。
このときの英語力は中3レベルと思います。
(念のため:彼は高校入試を突破してます。)

お母様が席を外したすきに、初めて直接話しました。
あっけにとられたのはこの時です。実は彼はめちゃくちゃ聡明なのです!
これは私の洞察力がすごいという意味では、断じてありません。
ちょっと話すだけで、語彙は豊富だし、頭の回転はいかにも速そうだし、
賢い子だとすぐ分かりました。

(その日の心境について、後になってたずねたことがあります。
「『親には黙って従うしかない』ような気持ちだったの?」と訊くと、
「そんなことはない。親がすることは基本的に信用しているから…」
とのことでした。)

ともかく、いくら賢くても、設問の単語が読めないディスレクシア受験生が、
大手予備校の大教室の授業で力がつくとは思えませんでした。

なので、帰りがけに
「まずは構文をしっかり固めたほうがいいよ。
たぶん××ではそれは無理だよ。これじゃダメだと思ったらいつでも連絡してね」
くらいのことは耳打ちしたと思うのです、が、
4月から彼は某二大予備校の私大理系クラスに通い始めました。

果たして、6月の模試では、英語の偏差値は30台、
理系科目に至っては20台だったそうです※。
この結果に絶望したご両親からご連絡を受け、個別指導が始まりました。

(※私の予備校講師的経験をもとにした予感があたったのはここまで。
その後の彼の軌跡は、普通の受験生とはまったく異なるものでした。)


お盆の頃、私が教える某現役予備校の講師室に現れたコスモ君は、
ひょうひょうとしていました。(道に迷わず、時間通りに来ました。
ご両親が奔走し振り回されていても、本人は台風の目のように静かで明るいのです。
これは最後までずっとそうでした。

~  ~  ~

ここから具体的な指導の話が始まるのですが、
その前に、お母様に書いて頂いた手記をご紹介します。



コスモ母です

もじこさんのプログを通じ、コスモを応援していただきありがとうございました。
桜、咲きました。新しい春を迎えることができうれしいです。
多くの方に支えて頂いたお陰です。

ちょうど一年前、浪人を決めましたが
この一年間は怖くて不安でどうにかなりそうでした。
高校在学時の成績は全教科、海底のヒラメとしか出会わない状態で
それでも楽しくのんきそうに高校生活を過ごしている彼に焦る気持ちから怒り、
時には罵詈雑言を浴びせる日々でした。
躓いている原因が解ればとの思いから、彼の気になる事象を一つづつ
明らかにしていきました、辛かったですが必要なことでした。

躓きの大まかな全体像が解るまで2年以上かかり、
そこからスッキリするのではなく、心の葛藤が始まりました。
彼は学業の成績において結果は出ないが、前向きな精神で明るく
心身ともに健全です、ただ学業の習得と不器用さは…。
学業の習得に困難さがあると解っても、彼の在りのままを受け入れず、
この状態ではダメだと言い続けてるのは親の私のエゴではないか…
一方、いずれ親は先に死ぬのに、成果主義の現代社会に適応させるのも
親の責任なのではないか…。等々。

現実には、成績低迷で親として自信を無くし、大学によしんば入学しても
その先が…と思い悩みましたが、相談に行った先々で伸びしろは十分ある、
工夫次第で可能だと背中を押してもらい、彼もまた四年制大学を強く希望したので、
病院の先生の勧めもありセンター試験の時間延長の申請のために、
高校に診断書を提出しました。

結果から言いますと、支援を得られず、
センター延長申請には至りませんでした。
学校側からは
『各教科の先生に確認したが
授業態度は真面目で赤点でない、問題を感じない。
県立の中上位校なので成績低迷しているのでしょう、心配しすぎじゃないですかと。
進路は相談しないといけないでしょうね〜』最後にはボソボソと
『こんな子大学に行ってどうするんですか』 と。
世間からの強烈な一撃でした。世間はそんなもの認めないと…。
先生は心配でなく呆れてるんだと、恥ずかしさ、悔しさ
理解してもらえないかと、諦めの気持ち、ありとあらゆる感情が胸の中で
一挙に交差しその後も、今も残響音のように胸の奥で響いています。
何度も心がくじけてしまいそうになりましたが、
その度に色々な方の支えや励ましで頑張ることができました。
もじこ先生はじめ多くの方々に心から感謝いたします。
これからも、彼の特性には付き合っていかねばならず、
困難が待ち受けてるとは思いますが、
この一年頑張れたことを糧に進んでいきます。
ありがとうございました。

~ ~ ~

センター試験延長申請って、高校側の承認が必要なんですね。
ということは、高校側にディスレクシアの知識がない場合、
認められる可能性はかなり低いですね…

あと、その教師のとどめのセリフはひどすぎます(´;ω;`)
うちも小学校の教師にずいぶんひどいことを言われましたが、
そういう言葉は何年も、精神を蝕みますよね…

しかし、コスモ君の受験物語は一応ハッピーエンドで終わります。次回に続く!→


13 件のコメント:

  1. まだ記事を斜め読みです。しかしとりあえず,コメントします。

    センター試験などの配慮は,高校での定期考査上の配慮によります。そして高校定期考査での配慮は,高校入試時の配慮により,高校入試の配慮は中学校定期考査での配慮によります。中学校から運動していかないと,配慮にはいきつかないようです。

    我が家のこどもはディスレクシアではありませんが,書字にかなりの困難が伴います。

    特別支援学級にも取り出しで通っていますが,学級の先生は「3年になればそれなりになりますよ」
    読めないとコメントされ,採点されなかった定期考査は何枚も。

    外部の相談にも行きましたが,「本人が自覚しない限り母親が動いても,いずれ破綻する」

    困難を抱えていても高等教育を受けられるだけのすごーい能力がみえない限り,大学で学んでも仕方がないという感じです。

    なので,エジソンみたいに秀でた面があればいいのでしょうが,よく「エジソンみたいに,すごーくとんがっているところはないのよね,うちの子どもには」という場合は,大変苦しいことになります。

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  2. まさにこの点についてもんきちママ先生の意見を伺いたいと思ってました。ありがとうございます!

    えっ。つまり、中学と高校の定期考査で配慮を受けたことがない人が、
    いきなりセンターの配慮だけ申請してもムダってことですか?
    ひどい~!

    一方で、中学では配慮申請してものらりくらりとかわされていると。
    もっとひどい~!

    それに小中で本人が自覚して教員に働きかけるケースって、
    考えにくいと思うんですが…

    なんだかすべてが矛盾してますよね。
    大学入試の多様化にかけるしかないかも…

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    1. 実績主義であると発達障害に関する配慮の導入を主導した方に聞いたことがあります。
      今回のコスモ君の件も,そんな感じですよね…。

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  3. 私がディスレクシアであると担任に話した時診断書をもらえば配慮申請するよと言ってくれました。その先生の教え子や友達が医師をしていたのでもしだったらその医師に無理言って診断書もらえるから。と言ってくれました。学習障害に理解のある先生で、使えるものは使えという先生で助かりました。

    できなかったのは英語だけで、他の教科は時間制限があることで急ぐ事が出来て点数がそこそこあったのと、あまり長くても集中力が続かないので時間延長の配慮は申請しませんでした。

    理解があるかないかで変わりますよね。。。

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    1. みずさんありがとうございます!
      ここに登場してくれてコスモのお母さんが大いに喜んでいるに違いありません(笑)

      今年受験したばかりのみずさんにぜひ聞きたいことがあります。
      センターの配慮申請はあまり意味がないのでしなかったとのことですが、
      どんな配慮なら申請したと思いますか?
      個人的には、1.3倍という延長は中途半端だろうと思ってました。脳を休める時間も含めて2~2.5倍くらいあれば完答できるのかなと。
      あとは、別室受験とか、メガネのこととか、、でしょうか?

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    2. コスモ君のお母様、受験期はコスモ君に励まされていました。脳を休める時間として2倍なら嬉しいです。でも、2時間40分も英語をやることは結構苦痛な気がします。

      個人的には10分程度の延長で十分です。10分あれば急いで流す大問がなかったかと思います。

      私は解くのは早い方なので、というより、先生が私の頭の回転の速さを見込んで早く解いて見直しにあてようと作戦を立てていました。

      メガネは配慮欲しかったです。本人確認の時は毎回ドキドキしていました。もし外せと言われたら読めなくなるのでどうしようかと。

      1教科だけの時間延長があったら使っていたかもしれません。(私が配慮申請しなかった一番の理由は親に言っていなかったからですが)

      2倍や1教科だけの延長を導入する場合、重度の人しか認められないかもしれないですよね。私みたいな英語だけなど、努力が足りないだけの世界になってしまって難しい問題ですよね。

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    3. なるほど。ありがとうございます。
      必要な延長時間も、人によって違うんですね。

      コスモは会ったことのないみずさんの存在が心の支えだったんですよ。私は二人からディスレクシアが多彩であること、そしてディスレクシア同士、つながりを持ちたいものだと学びました。。

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    4. コスモ母です。
      同じ苦労を持ちながら頑張ってるみずさんの
      存在を知って私達も励まされました。
      ありがとう。

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    5. !ここまで来て下さり、ありがとうございます。
      コスモさんは元気にやってますでしょうか?

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  4. 私が知る限りでは中野区は違います。初等教育は基本的に市区町村単位ですので,市区町村単位でかなり差がありますし,理解のある先生に当たるかどうかでかなり変わってきますね。
    都立高入試は3年の内申ですから,あと1年間で本人の自覚を促す一方,高等教育を受けるに足りる力を持っているのかどうかも判断していく必要があるかと思います。
    大学入試が変わっていきますが,その変化が通常発達ではない子どもたちにとって有利な方向性にいけばよいですが,なんとなく厳しくなってしまうような気がします。

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  5. komariです。
    コスモくん、おめでとうございます!!
    嬉しいお知らせありがとう。

    たぶん隠れディスレクシアで、入試試験に携わる者としてコメントです。
    私もみずさんと同じで、解くのは早く(=つまりは読み飛ばし)、大学受験時には、だいたい試験時間の半分で終了、その後丁寧に見直し、最後の10分ぐらいは休息、という感じなので、時間は特に問題とはならなかったです。あとは、自分に合う試験問題傾向や、受験科目数、配点のある大学を選んだ、という状況でした。

    一方、試験監督は、かなり体力的にも精神的にもきついです。センターの場合は、朝8時から夜7時ごろまで拘束され、昼休みは30分、それ以外はトイレ休憩程度しか時間がありません。
    昔は試験中に交代で休憩をしていたそうですが、受験生から苦情があったようで、今は緊急時以外は外に出られないことになってます。
    身体障害など配慮を必要とする受験生への対応の他、音が気になるや体調不良などにより個室で受験するのに予備の監督者が足らなくなるような状況もあります。
    (その対応にも奔走します・・・)
    この先、大学入試制度が変わるということで、こちらも不安です。各大学の、減らされる一方の教職員で対応するにも限度があり、発達障害も含めたハンディある受験生に配慮するためには国による対応が必要なのだろうと思います。

    うまく説明できないですけど、もんきちママさんが書かれているように、今後の入試制度の変化が、いろんな人に負担にならなければ良いと切に願いますが、期待できないというのが正直な気持ちですね。

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    1. komariさん,おしゃっる様に別室受験の生徒が一人出ると,本当に大変ですね。よくわかります。書いていらっしゃるように,国による対応が必要でしょう。

      センター試験を始め,子どもたち一人ひとりの能力を生かし切る方向で進まないと,その子も苦しい,少子化の状況では国も苦しくなってしまいます。

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  6. komariさん、2件のコメントありがとうございます。
    もう一方のほうは思わず泣けました(ノД`)

    センター試験って、あらゆる試験の中でも「様式美」の極致ですよね。
    英語はちょっと是正されたとはいえ、今もかなり人工的な文章ですし、全国で寸分違わず同じ条件で試験をするためと称して50万個のリスニング機器を配付するとかもう。そのためにkomariさんがおっしゃる通り試験監督も疲弊しているんですね。
    実際の英語の運用とまったくかけ離れているのに、そのためにこんなに苦労しなければならないのはかわいそうです。。

    大学入試の英語の試験は、大学での学問や社会に出てからの実際の運用につながる能力を問うものであってほしい(会話重視という意味ではなく、「あとは会話だけ」というくらい読み書きの基礎をしっかりさせておく)と思うのですが、特に中堅以下の私大の試験は重箱の隅的な問題になりがちで、実際の運用にはほとんどつながらないのも残念なことです。

    そうでした!隠れディスレクシアだとむしろ読むのは速いんですよね。難関大志望のディスレクシアにはそのタイプが多いです(超絶遅い人もいますが)

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