無事に帰国しました~。リムジンバスの中でこれを書いています。
IDAの参加者たちはどうやら本当に、去年の宿題を持ち帰って生徒に試してみて、再び集結しているように見えました。
変化のスピードが速いです。
去年はResearch
to Practice(「研究成果を授業にどう生かすか」)がキーワードでしたが、
今年は「音韻認識をどう教えるか」の発表が多かったです。
もちろん、フォニックス(音と文字の対応を教えること)それもシンセティック・フォニックスはすでに当たり前となっており、alphabetical phonics(アルファベット順に教えるフォニックス)は、旧時代の遺物としてたまに言及される程度です。
・「アコモデーション(配慮)とレメディエーション(読み書きの訓練)は、同時並行で行うべき」もあちこちで指摘されていました。(assisted technology(IT機器の使用)の発表は少なめでした。)
これらの点について、私の結論を先に申しますと・・・
(1) 合理的配慮は、英米の学校制度や価値観の中でこそ、初めて理解できるもの。
日本の受験生が合理的配慮を使う場合は、配慮の背景にある社会や価値観が日本とは違うことを理解して、その上で戦略的に使うべき。
(2) レメディエーションは、とても過酷なものらしい。
そして、もじこ塾の一部の授業は、すでにレメディエーション化しているらしいΣ(゚Д゚)
合理的配慮については、近日中に改めて書くとして、ここではレメディエーションについてまとめてみます。
以下、かなり技術的に細かい内容です:
☆ ☆ ☆
・レメディエーションは、苦手にフォーカスして、パフォーマンスのギャップ(読み書き能力と知的能力との差)を埋めるために行うもの。
・以下が必要:
(1) Structured(体系的、構造的)
(2) Sequential(順を追って)
(3) Overlearning(反復的)
(4) Research-Based(科学的研究に基づく)
(5) Multisensory(多感覚)
(1) Structured(体系的、構造的)
私はこれを「網羅的」と理解しました。英語の音はすべて教える必要があるし、中学文法にしても高校文法にしても極力、「これで全部だよ」というものを示しながら教える必要があるということでしょう。
個人的には今回、ようやく腑に落ちた概念のひとつです。
(2) Sequential(順を追って)
これは「前に教えた知識の上に、新たな知識を教えること」。
例えば、-irが-erと同じ発音だと明示的に教えないうちは、-irが入った語を読ませてはならない、ということです。
「この点は厳格に守りたいところだが、コントロールされていない文章に、生徒は学校で触れてしまう」とのことでした。日本でも事情は同じですね。
(3) Overlearning(反復的)
反復が大事という意味です。オーバーワークが大事という意味ではありません^^;
(4) Research-based(研究成果に基づく)
IDAではオートン・ギリンガムが神聖視されています。そんななか「彼らを北極星としつつも、最新の研究成果を取り入れて聖人を乗り越える必要がある」・・・という文脈で登場していました。
また「教師は、自分が習った方法を絶対だと思ってはならない」という意味や、Reading Wars(フォニックスvsホールワード派をめぐる議論。政治論争にまで発展)のような不毛な戦いが、再びあってはならないという意味もありそうです。
(5) Multisensory(多感覚)
これはなかなか曲者な概念。人によって定義が違います。
「マルチセンサリーな音韻認識の教え方」という発表に行ってみるも、7色のマグネットを使うことだったり(その程度でもいいんですね)。
それなら「犬に読み聞かせをする」ほうがよっぽど多感覚じゃないかと思ったり(この発表はものすごく期待していたのですが、普通というか予想の範囲内の内容でした)。
読み書きを教えるのに、文字と音以外の手段を使うなら、とりあえずはすべてマルチセンサリーと名乗っていいようです。ううむ。
~~~
「オートン・ギリンガム法をアップデートする」というシンポジウムで、州立病院で行われているというレメディエーション・プログラムの授業内容が紹介されていました:
(1) handwriting(字を書く練習)
(2)音韻認識
(3)フォニックス/デコーディング
(4)文法
(5)コネクテッドテクスト(まとまった文章を読む)、
(6)スペリング
なんと!中学生クラスの授業内容とほとんど同じじゃありませんかΣ(゚Д゚)
アクティビティの大まかな順番や、最初が筆記体で、最後にスペルを書かせる点まで同じ…!
この話をしながら、発表者は感極まって涙で声を詰まらせてしまい、場内は若干引いてました(汗)
しかし私はそれで分かりました。このレメディエーションは相当に過酷なのだろうと。
なぜなら、もじこ塾の生徒も同じだから。本気で速読みや音読で生徒を追い込むと、かわいそうなくらいヘロヘロになるからです。
そこから、もじこ塾の中学生(と一部の大学受験生)の授業は、いつのまにレメディエーション化していたことが分かりました。
ちなみに、発表のレメディエーションは
週5日、毎回1時間、対象は小2~7年(中1)、1クラス4~5人、期間は2年間
とのことでした。
読み書き能力は大幅に向上し、しかも2年間のレメディエーション終了後、この教室を離れても、読み書き能力の向上は続くとのこと。
つまり、もじこ塾中学生クラスは、できれば週3回だと、理想のレメディエーションに一層近づくということですね・・・でもそこまで英語に割ける生徒はなかなかいないわけで・・・
5時間分をカバーする方法を考えてみたいです。その上で、2年間で卒業を目指せれば、理想的ですよね。
その他:
・visual
lexicon(まるっとスペルを覚える単語の量)には限界がある。
・文章を丸暗記するのは、長期的には逆効果。音と文字の対応(フォニックス)を教える必要がある。
→日本の定期テスト対策で陥りがちですね。
・レターボックスに入る単語は、文字列の並びは順不同。(sawとwasは区別されない)
・サイトワードを初期に教えすぎると、脳内の音-文字の結びつきが弱くなり、字の入れ替わりが起こりやすくなる。
→単語の丸暗記も有害だということですね。「まるっと覚えられる単語の量には限りがある」と合わせて、丸暗記の害は肝に銘じたいです。
・精度なくしてスピードはない(正確性が向上しなければ、関心がある内容しか読めない)
・音韻認識の訓練は、2年間のレメディエーションを通じて行う。はじめは明示的に、2年目は他のアクティビティに混ぜ込んで。
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バスは予定よりも早く目的地に到着しそうなので、取り急ぎアップします。
明日からは通常授業。まだ報告は続きます!
もじこ塾は偉大ですね!
返信削除でも、本当に読み書き障害があっても、
もじこ先生の御指導のおかげでわが子も
読み方は理解できるようになったと思います。
(ICT機器使用への事例や言及が少なかったのは、
special needsのある子だけでなく、
「一般的に」教室で使用しているせいかと思います。
日本は教育現場への導入が著しく遅れてしまいました)
米国ではディスレクシアの支援教育は2年で卒業、
とのことですが、彼らにとっては(一応)「母語」ですし、
あまりこだわらなくてもいいかとも……。
多分、受験期を彼らが一人で乗り越えるのはつらいと思うので、
週1回で3年間で、お願いします!
また、合理的配慮を受ける環境については、本当に同感です。
1クラスあたりの生徒数も、ずっと少ないし、
学校スタッフの分業もきっちりある環境で
(また周囲の保護者の人権意識も日本とは違う)
行われる「合理的配慮」をそのまま、
「ブラック労働」と言われる日本の学校の先生方に
お願いするのは、かなり負担をかけるという意識をもって
保護者も動いたほうがいいと思っています。