ディスレクシア専用英語塾「もじこ塾」のブログです。 ●ディスレクシアとは:知能は普通だが、読み書きが苦手(読み間違いが多い、読むのが遅い、書き間違いが多い、読むと疲れやすい)という脳の特性 ●全体像の把握、物事の関係性・ストーリーの把握、空間把握、ifを考えるシミュレーション能力に長ける ●読み書きの困難は、日本語より英語に出やすい ●適切に対処すれば、読みの問題は表面上は克服される ●10人に1人程度いるというのが通説 ●家族性とされるが、ディスレクシアの表れ方は個人差が大きい もじこ塾は、ディスレクシアはこれからの社会に不可欠な才能、でも日々の学習では普通と違うアプローチが必要、という立場です。

2013-09-14

ジョリーフォニックスを試してみる・その1

ディスレクシアだと日本語の読み書き以上に英語で苦労するので、中学に入る前にフォニックスを教えたほうがよい

と、さる方からコメント欄を通じてアドバイスを受けていました
(ありがとうございます!)。

たしかに、子が英語で苦労するのは目に見えていました。
3年生の頃、学校でローマ字が出てきたときは、ほとんど覚えられませんでした。
#b・d・p・qが混じったり、eやcを視力検査みたいにあらゆる向きに書いたりしたあたりから、「この子は何かが変だ」と気がついたのでした。



私は高2以上しか教えたことがないので、フォニックスについて勉強するところから始めなければなりませんでした。
予備校の中学部の講師も、知り合いの中高教員も、フォニックスのことは名前しか知りません。
とりあえず、フォニックスとは「アルファベットの文字の読み方を、原則として1文字1音対応で教える」こと、フォニックスには不要論も根強いこと、そしてフォニックスにもいろんな流派があることが分かりました。

いろいろ調べて、たどりついたのが、ジョリーフォニックスでした。
大阪で行われた山下先生のセミナーに出席して、話を聞いてきました。
そして、ジョリーフォニックスを子供に試してみることにしました。



セミナーのメモを再現してみます
(あくまでも私がとったメモなので、誤解があったら申し訳ありません):

  • ジョリーフォニックス(以下JP)は「シンセティック・フォニックス」の一種である。
    • 「シンセティック」(synthetic:合成)とは、最初に英語のオトを教え、それをblending(オトとオトを連続させて読む)という手順を指す。

  • 従来のフォニックスは、単語から音を分解する「アナリティクス・フォニックス」。
    • 英単語を知っていることが前提なので、日本人には難しい。
    • 「appleの"a"」という教え方は、英語のオトが入っていない段階でaの音だけ取り出すことを要求するもので、これも日本人には難しい。

  • シンセティック・フォニックスは、「単語の丸暗記」と正反対のアプローチ。
    • 「単語の丸暗記」は、「読み能力は話す能力と同じように自然に習得できる」という考え方に基づいている。
    • 読書好きであることが前提。単語の丸暗記ができないと親が悪いということになる。
    • だが読み能力は話す能力と異なり、教えなければ習得できない。

  • JPの5本の柱は
  1. 文字のオトを覚えること(1文字1音対応)
  2. 文字の形を覚えること
  3. ブレンディング(文字と文字、オトとオトをつなげて単語にすること。c・a・tをつなげて読む)
  4. セグメンティング(単語をオトに分解すること。catをc/a/tに分ける)
  5. ひっかけ単語(tricky words:1のルールで読めない例外語、英単語の3割に相当)を正しく綴ること



  • JPではアルファベットの「名前読み」(エイ、ビー、シー…という名称)は教えない。
    • そもそもアルファベット(ABC・・・)も教えない。そのため、子供は混乱しない。

  • JPでは単語から音を切り出す順番では教えない。英単語を全く知らなくても学べる。

  • ABC…ではなく、頻度順(s、a、t…)で教えていく。
    • 数文字を習った時点で少しずつ単語が読めるようになる。
    • このように、「字を習ってすぐに単語が読めるようになる」のも特長。

  • 1文字1音対応を教えてから例外に拡張するというJPの進め方は、「今」を「いま」という読み方で教えたうえで、後で「こん」という読み方を教えるのと同じで、混乱が少ない。

  • JPは1990年代に現場の教師が考案した。非常に効果が高いことが判明し、2005年にはイギリスの68%の小学校で採用。

  • 「ジョリー」は共同考案者である、クリストファー・ジョリーさんの名前からとっている(この方もセミナーで話されました)。

  • JPは、最終的には「子供が自力で読めること」を目指す。

  • JPのテキストは多感覚式。
    • 1つ1つの音に特定の絵・動作・歌が結びつけられている。
    • 動作をしながら言う(nは飛行機になりきって飛ぶ動作など)
    • 絵を見てそのオトが入っている単語を探す
    • 字を指でなぞる
    • 音源にあわせて歌を歌う
    • …など、さまざまな感覚を使ってオトと文字の対応を頭にたたきこんでいく。



  • JPは、イギリスで非常に効果をあげている:
    • 習熟度に男女差がない(非JPでは女子のほうが習熟度が高い)
    • JPで学ぶと、丸暗記派と比べて学習進度が1年近く先に行く。
      • スコットランドの9校でJPで1年間教えた実験では、非JPの子供と比べ、7年後もスペリング(1.9年)、リーディング(3.6年)、理解力(3.5ヵ月)上回っていた。
    • ノンネイティブ(移民の子など)でもネイティブと同様に習得可能である。
    • 貧困層(=親のサポートを受けられない子供たち)にも高い効果を挙げている。
    • アイルランド、ドバイ、ガンビアなどでは、国策として全児童にJPで英語を教えている。


そして・・・


  • JPはディスレクシアの子に効果をあげている(多感覚式、1文字1音対応のため)
  • アスペルガーの子にも効果をあげている(1文字1音というルールをしっかり教えるため)。



セミナー後、「ディスレクシアである息子にジョリーフォニックスを試してみたいと思うが、注意すべき点はありますか?」とジョリーさんに質問してみました。

「『ディスレクシアの子にはフォニックスこそが有効』が現在主流の考え方なのは知っていましたか?」と念を押されたうえで、
- ディスレクシアであっても、非ディスレクシアと同じペースで進めてよい
- まず8週間程度かけて基本ルールを教える。
- その次に、alternative spelling、tricky wordsを教える
- 上記は、毎日続けて1年かかる

とのアドバイスを頂きました。


☆  ☆  ☆


セミナーで一番JPについて感銘を受けたのは、「ディスレクシアの子にも学びやすいように」さらには、「ノンネイティブの子でも学びやすいように」という姿勢を前面に出していることです。
英語が好きで得意な子、英語圏に生まれた子、といったアドバンテージのある子だけでなく、
英語を母語としない子、貧困や発達障害等で英語を学ぶのにハードルがある子、にも目を向けています。
「ハードルが高い子にとって学びやすい方法は、ハードルがない子にも学びやすい方法である」の通りです。

また、「より多くの子に英語を使えるようになってほしい、だから英語へのハードルが高い子たちも歓迎します」という愛ある姿勢を感じました。

けっこう多くの英語教育メソッドが、意欲も能力も高い人だけを対象にしています。
「できないやつは永遠にできないままでいろ」という雰囲気を漂わせているものも、けっこうあります。
それとは対照的に、JPには「すべての子に英語が使える人になってほしい」という愛情が感じられました。

もちろんこの愛情は、英語を使える人が増えれば英語のグローバル言語としての地位もますます安泰になる…というしたたかさと表裏一体のものです
(日本語教育界も、こういう姿勢をちょっと見習わなければなりません)。





ジョリーフォニックスの教材一式を買ってみました。



私は「ディスレクシアだろうとなかろうと、フォニックスで学ばないほうがおかしい」派です。
フランス語もドイツ語も、入門の第一課では、まず文字をどう発音するかを教えます。
英語だけ、「この文字は何と読むか」を明確にルール化していないのです。
(英語という言語が、1文字1音対応になっていないのがいけないのですが。)


現在、基本ルールの半分ほどまで進みました。
すみずみまで愛がある教材です!
ローマ字が結局入らなかった子も、この方法なら入っているようです。


続き↓
2013-10-28 ジョリーフォニックスその2・「音→動作→文字」の回路をつくる




4 件のコメント:

  1. はじめまして。
    小5の息子が、学校でかんしゃくを起こすようになったのをきっかけに、ADHDの傾向があることに、最近気が付き(親に知識がなかったので・・)、色々調べてこちらに出会いました。
    こちらのHPを拝見してると、息子にもディスレクシアの傾向もあるかも・・と感じています。

    閉鎖的な地域に住んでいて、井までも周りの大人達に急激に攻撃を受けるようになり、カウンセリングもためらい検査も踏み切れずにいます。
    学校の先生自体が学習障害の知識がほとんどなく、でも手に負えない子には「カウセリング受けましょう・検査受けましょう・・」と・・。
    去年、一度受けたことがありますが(認知能力が低いけど、異常なしと・・)、今の担任には受けたことさえ引継ぎされていませんでした。
    学校や先生方に関しては、信用できない感情があり、個人塾など使いながら、自力で息子のケアを考え中です・・・
    すごく田舎で、周りも親は、カウセリング受ける子は「頭のおかしい子」と噂するような環境です。

    本題ですが、英語のできない親でも ジョリーフォニックスの教材一式を使いこなせそうでしょうか?
    中学に向けて息子にキッカケと自信をつけさせたくて検討中です。
    離島に居るので英語教室も環境が整っていませんので・・

    私自身は、高校時代にが雄国語学部を目指しましたが、受験に失敗してから英語嫌いになり、全く勉強していません・・40代半ばで受験英語ばかりしていました。公立の高校入試問題が8~9割解ける程度の学力です。

    ご助言いただけたらありがたいです。

    返信削除
    返信
    1. はじめまして。ご来訪ありがとうございます!

      私は講師的には大学受験生以上が相手で、小学生は親として教えていますが、
      以下、その範囲内でお答えしてみます・・・

      >英語のできない親でも ジョリーフォニックスの教材一式を使いこなせそうでしょうか?

      フォニックスは英語の本当に入口なので、ぺらぺらじゃなくても教えられると思います。
      ただ、
      「英語が読めると人生、楽しいことが色々あるよね!」というスタンスを持つことが、
      教える側の英語の出来にかかわらず、大事なことかもしれません。

      フォニックスは正しい英語のオトを入れることを重視しているので、
      それなりに正しい発音ができることは、大事な気がします。
      (後に述べるトーキングペンを使えば、この点は解決します)

      あと、ディスレクシアの場合、普通の子より文字を覚えるのにすごく時間がかかります。
      そのあたりのことも、ど~んとかまえることが大事かと。



      教材について・・・
      ジョリーフォニックスは、山下桂世子さんというイギリス在住の方が第一人者です。
      日本での普及に熱心ですし、とくに特別支援教育のなかでの英語教育に関心を持っていらっしゃいます。
      このブログの左列に出ている「イギリスの学校」というブログが、山下先生のブログです。
      どの教材を買われるのがよいかは、山下先生に相談されるのが一番かと思います。
      山下先生のブログに、進め方もかなり具体的に書いてあります。
      http://igirisunogakko.blog98.fc2.com/blog-entry-256.html

      と言ったうえで、
      現在うちでは一式買ったうえで、トーキングペンとフラッシュカードと音の出る本を使っています。
      (今度詳しくエントリーに書きますね)
      ジョリーフォニックスを家庭で行う場合、トーキングペンはかなりお勧めです。
      ただし、タッチペン関係教材のばら売りは、今のところしていないようです(>_<)


      息子さんが落ち着きをなくされていること、読んでいて心が痛みます…。
      最近までお母さんが気づかれなかったのもわかります。
      私も、自分がADHDだと気づいたのは、つい数カ月前なのですから!

      30年前に小学生だった頃の私は、やはり周囲と衝突することが多かったです。
      「あなたは行動力があって人と違った見方ができる特別な子、
      でも周囲にびっくりされないよう、これとこれだけは我慢してみたら?」
      って言ってもらいたかった気がします。

      学校には残念ながら、心ある教員はまだまだ少ないのが現状のようですね。
      これは都会でも離島でも、変わらないようですね…。

      長くなってすみません。お役に立てていると良いのですが。

      削除
    2. 詳しいアドバイスと心強いお言葉、ありがとうございます。

      「あなたは行動力があって人と違った見方ができる特別な子、
      でも周囲にびっくりされないよう、これとこれだけは我慢してみたら?」

      そんな言葉を見つけて言える親でありたいと思います・・さっそく、息子にいってあげたいです!

      実は、こちらから山下先生のHPも見つけて、以前質問したのですが、お返事が来ていなくて、待ちきれず、こちらにもお伺いしました・・・もう少し、まってみます!

      実は、勉強するほどに私もかなりADHDの傾向があることを発見し、今までの自分のイヤだった部分の原因が分かったようで、安心しています。笑
      (私は大人しいタイプのADHDというか・・・まわりは、抜けてるとか、天然とかいいます。)

      こちらのHPを参考書代わりに使わせていただいています。ありがとうございます。

      削除
    3. なんと身に余るお言葉。ありがとうございます。
      今も試行錯誤中ですし今後も試行錯誤の見込みですが、今後ともご縁をいただけたら嬉しいです。
      離島の子育て、ぜひ教えて下さい!

      山下先生、10月に再来日の予定のようなので、きっとご多忙なのだと思います。

      3人ママさんもADHDですか(^_^)
      「自分のイヤな部分が分かって楽になった」まったくもってその通りです!
      以下は受け売りですが・・・

      子供のLDやADHDが発覚すると同時に親も似たものを持っていることが発覚することは少なくない、
      それは「よかったね!」なこと。
      というのも、そんな親は「LD/ADHDだけど社会に適応できた成功例」として子供に社会適応の方法を教えてあげることができるから・・・だそうです。

      削除