ディスレクシア専用英語塾「もじこ塾」のブログです。 ●ディスレクシアとは:知能は普通だが、読み書きが苦手(読み間違いが多い、読むのが遅い、書き間違いが多い、読むと疲れやすい)という脳の特性 ●全体像の把握、物事の関係性・ストーリーの把握、空間把握、ifを考えるシミュレーション能力に長ける ●読み書きの困難は、日本語より英語に出やすい ●適切に対処すれば、読みの問題は表面上は克服される ●10人に1人程度いるというのが通説 ●家族性とされるが、ディスレクシアの表れ方は個人差が大きい もじこ塾は、ディスレクシアはこれからの社会に不可欠な才能、でも日々の学習では普通と違うアプローチが必要、という立場です。

2013-09-12

台湾語ディスレクシアから日本語ディスレクシアを考える

台湾の国営雑誌「台湾光華雑誌」のサイトに、台湾語ディスレクシアの話がありました。

識字障害を理解する


国民的トップ歌手がディスレクシアを告白、
ディスレクシアの子が味わう苦労の数々、
得意を見つけてそれを伸ばすことの重要性、
小説を書くことが得意だと分かったディスレクシアの少女の話、
リー・クアンユー元首相のディスレクシア的エピソード、
「人間の脳はもともと読むために作られていない」(『プルーストとイカ』)

・・・とても読み応えのある記事です。

以下、この記事から連想したことを、つらつらとまとめてみました。


☆  ☆  ☆

台湾の国民的トップ歌手、蕭敬騰は、憂いのあるイケメンでした。
Jam's Official Channel

「悪い見本です」「よく勉強しなかったことを後悔しています」と、蕭敬騰はテレビのインタビューで喉を詰まらせながら語った。レコード会社やマネージャーによれば、彼は自分についての報道も写真を見るだけだし、CM撮影の台詞は誰かが何度も読み聞かせて覚える
まさに、台湾版トム・クルーズですね。。




☆  ☆  ☆

台湾のディスレクシア教育の議論は、日本よりも進んでいるかもしれません:
虫歯や視力の検査を定期的にやるように、基本読解能力試験も定期的に行うべきで、こうした小さなことが10数万人の児童を救います」小学3年までの黄金期を逃さず、彼らの適性や才能に合わせた学習方法をできるだけ早く確立すべきだと、洪教授は言う。
ポイントは、低学年時に基本的な識字能力を身につけること。中高学年では自分に適した学習方法を確立する(絵を活用する、文章の重点を把握する練習を積むなど)。中学生になれば、教師が宿題や評価の方法を変えたり、生徒の得意分野の発展を促すことなどが有効だ。
→低学年でスクリーニングを行い、中学年以降は適性にあった学習方法を確立。中学生になったら得意に注力。日本もそうあるべきです。
うちも、小1のときの担任から「字形が取れない」「ひらがなが書けない」と厳しい口調で指摘されていました。
「おうちの人がしっかり見て下さいね」、つまり親の躾の問題と言われていました。
なので、当時はずいぶん厳しく叱って、夜遅くまで書き取りをさせていました(T_T)
もし、1年生全員などを対象にしたディスレクシア検査があれば、親の躾や練習不足の問題とされることもなく、子供を意味なく追い詰めることもなかったのに…と思います。子は今でも当時厳しく叱られたことに傷ついています。
鳥取県で発達障害児の5歳児検診が行われているようですが、全国に広まってほしいです。



☆  ☆  ☆
アレンは小4までは成績もよかった。小1の時は注音符号(中国語の表音文字。漢字習得前に学ぶ)の試験で96点を取ったし、その後のテストも各教科平均80点ほどだった。だが字の書き間違いが多く、母親は少し変だと感じていた。


→注音符号について調べてみました(wikipediaより抜粋)
1918年、中華民国の教育部(文部省)が、日本語のカタカナにならって、読む音を注記するために公布した。今は主に台湾(中華民国)で使用・奨励されている。中国(中華人民共和国)やシンガポールでは廃止され、ピンインを使用している。

つまり、ピンインの代わり、カタカナの台湾バージョンのようです。
注音符号


どーしても「Y」「さ」「せ」「ム」に見えます。。。
それぞれa、e、ê、sらしいです。

「せ」と書いてêと読む、「さ」と書いてeと読む、この混乱してむしゃくしゃした感じこそが、
What is Dyslexia?の動画にも出てくる「オトを脳内で操作するのが苦手」、日々ディスレクシアが味わっている苦労なのでしょう。


☆  ☆   ☆

「注音符号ならまだなんとかなる」について調べていて、Cell誌の2009年の論文に行き当たりました。

中国語ディスレクシア児は、視空間処理の欠陥と音韻処理の欠陥の併存によって特徴づけられる

原文→こちら


要約の訳


発達性ディスレクシアは、「適切な知能と通常の学校教育を受けてもなお読み技術を取得する能力が著しく減損していること」を特徴とする神経学的状態である。英語の読み手にとっては、読み能力の減損は、音韻処理障害と臨界的に関連している。音韻処理障害と形態処理(orthographic processing、目に見える語の形の処理)の欠陥を併発する場合があるが、ほとんどのディスレクシアでは視覚処理全般の障害は見られない。

ディスレクシアの病態生理学は文化によって異なる。例えば、英語と異なり中国語の書き言葉は、漢字という視覚的に緻密なかたちをさまざまな意味と結びつける。
このため、中国語の漢字の発音は機械的に暗記しなければならない。
これは、中国語では粒度の高い視空間分析を経なければ、漢字の音と意味を呼び起こすことができないことを示唆している。
このため、中国語ディスレクシアの場合、音韻処理の障害と視空間処理の異常が併存する場合がよく見られる可能性がある。
この仮説を検証するため、中国語ディレクシアの人12名にfMRIを行った。12名は音韻障害を呈することがすでに判明している。視空間を計測する物理的寸法の判断を行った。
12名の対照群と比較した結果、ディスレクシアの人は頭頂間溝(IPS、視空間処理をつかさどる部位)の活性化が弱いことが示された。
個人成績を検証した結果、中国語ディスレクシアは視空間的な欠陥と音韻障害(phonological disorder)の共存を伴うことが一般的であることが示唆される。



~~~
中国人ディスレクシアの脳と、アメリカ人ディスレクシアの脳に、生まれながらにして違いがあるとは思えません。
つまり、ディスレクシアというのは、母語を問わず、視空間処理の欠陥と音韻処理の欠陥が併存している、と考えるのが妥当ではないでしょうか?
視空間処理の欠陥と音韻処理の欠陥の出方が、人それぞれ非常に違うということで。

そういう点で、時々みられる「視覚優位型」「聴覚優位型」という区分は、ちょっと語弊があるのかもしれません。
「視覚優位型ディスレクシア」とは「聴覚処理が損なわれることで、正常な視覚処理能力がより研ぎ澄まされたディスレクシア」ではなく、
一見すると「視覚優位」に見えているディスレクシアも、視覚処理になんらかの問題を抱えていて、でもそれが普通の人より「能力が高い」という形で表面化しているのかもしれません。

あと、漢字に関しては、中国語より日本語のほうが難しいです!
中国語の漢字は1文字1音対応ですが、日本語は音読みやら訓読みやらあって、音に関してはさらにハードルが高いです。
一方、漢字は意味をイメージで理解できる部分もあります。うちの子は「殺」を「死ねって意味だよね…」と言ったりします。
「音にはできなくてもなんとなく意味はわかる」漢字がかなりあるようです。

最近「いったい、ディスレクシアにとって、本当に漢字のほうがひらがなよりも難しいと言えるのだろうか? 実はひらがなには独自の難しさがあるのではないか?」などと考えています。
この話はまたの機会に…。





2 件のコメント:

  1. バーバモジャ2013年9月13日 23:14

    私が住んでいる市町村でも5歳検診が必要なのではないか、という意見がチラホラでている、と保健婦さんからは聞きました。でも全然実践されそうもないです。
    検診をしたほうがいい、という理由は、広汎性発達障害などで、1歳半、3歳検診で引っかからない子(知的に普通かそれ以上だと引っかからないか、グレーで終わる子多い)を意識しているだけで、ディスレクシアの発見の目的ではないかもしれませんが。

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    1. 5歳での発達障害検診、実現したら救われる子がいっぱいいると私も思います。

      最近「MRIをとることで学齢期前の子のディスレクシアを診断できるかも」という研究結果が出てました
      http://news.cnet.com/8301-11386_3-57598594-76/brain-scans-could-uncover-dyslexia-before-kids-learn-to-read/

      ありがたいことですが、でも全5歳児にMRIはちょっと非現実的ですよね、、、

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