ディスレクシア専用英語塾「もじこ塾」のブログです。 ●ディスレクシアとは:知能は普通だが、読み書きが苦手(読み間違いが多い、読むのが遅い、書き間違いが多い、読むと疲れやすい)という脳の特性 ●全体像の把握、物事の関係性・ストーリーの把握、空間把握、ifを考えるシミュレーション能力に長ける ●読み書きの困難は、日本語より英語に出やすい ●適切に対処すれば、読みの問題は表面上は克服される ●10人に1人程度いるというのが通説 ●家族性とされるが、ディスレクシアの表れ方は個人差が大きい もじこ塾は、ディスレクシアはこれからの社会に不可欠な才能、でも日々の学習では普通と違うアプローチが必要、という立場です。

2012-03-03

ディスレクシアのプラス面


The Upside of Dyslexia


ニューヨークタイムズ紙に掲載された、
ディスレクシアのプラス面」By ANNIE MURPHY PAUL
を訳してみました。
(13/02/04に翻訳の後半とコメントを追加しました。)


・ディスレクシアの人は、(中心視野ではなく)周辺視野がより鮮明
・ディスレクシアの人は普通の人と比べて視野の中心の認識力は低いが、視野の端の認識力は高い
・ディスレクシアの人は、膨大な視覚的データから意味を見出したり、パターンを見抜く能力に長ける

改行を増やし、小見出しをつけました。

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ディスレクシアという言葉は、読みに苦労を伴う様子を思い起こさせる。実際、米国人のうち推定15%とされるこの学習障害を持つ人が、大変な苦労をしていることは事実だ。100年以上前、「字盲」と呼ばれたこの現象が初めて文献に登場して以来、科学者の関心はもっぱらディスレクシアの原因と治療法解明にあった。
だが最近、ディスレクシア研究は驚くべき展開を迎えている。ディスレクシアの人は通常の読書能力を持つ人と比べ、ある面で高い能力を持つことが明らかになるにつれ、どういった面で高い能力を持つのか探ろうとする動きが出てきたのだ。最新の研究成果により、ディスレクシアという状態を障害だけでなく卓越として、特に芸術や科学の特定分野における高い能力と関連づけて見る動きが高まっている。

ディスレクシアは複雑な障害であり、解明されていない部分も多い。だが最近行われた一連の画期的な実験により、ディスレクシアの人の多くは独特の認識能力を持つことが分かってきた。
例えば彼らは一般の人より周辺視野が鮮明であることが、研究によって明らかとなりつつある。

■端の文字をより正確に認識する

マサチューセッツ工科大学の認知科学者Gadi GeigerJerome Lettvinはタキストスコープ(瞬間露出機)を使い、被験者の視野の中心から周縁部にかけて連なる文字列をフラッシュさせる実験を行った。中心部の文字をより正確に認識したのは通常の読字能力を持つグループだったが、端のほうの文字をより正確に認識したのは、ディスレクシアのグループだった。

この研究成果はその後の研究でも確認されており、ここから驚くべきことが明らかになる。つまり、脳は視野の中心と周辺部に映った情報を別々に処理しているということだ。しかも二つの能力はトレードオフの関係にある----視野の中央に映る情報に集中するのが得意な場合(読みに必要なのはこの能力だ)、周辺部の広い領域に存在する形や模様を認識する能力は低くなる。

逆もまた当てはまる。ディスレクシアの人は周辺視野の認知能力が高い。このため、状況の全体像を素早く把握することができるのだ。専門家の言う「視覚的要点visual gist」を吸収する能力である。

■(エッシャー風の)実際には成立できない絵を見抜く

ディスレクシアの人は視界の端に映る情報の処理能力が速いこの興味深い事実を示すもう一つの実験が、エッシャーの絵に代表される「存在しない」形を使った研究である。
エッシャーの絵は複雑に入り組んでおり、一つの要素だけに注目してしまうと、物理的に成立可能な形だと思い込んでしまう。だがもっと広い視野を持ち、絵の全体を情報として一度に認識した場合、階段が実はどこにもつながっておらず、水が下から上へと流れていること、端的に言うと成立不可能であることが明らかになる。
ウィスコンシン大学オークレール校で心理学を教えるCatya von Károlyi准教授は、エッシャーの絵を単純化した類似の画像を見せたところ、ディスレクシアの人は平均2.26秒で成立可能か不可能かを判別した。これは非ディスレクシアの人と比べて1.3倍速い。
「この発見の驚くべき示唆は、ディスレクシアは欠陥としてのみならず、才能としても特徴づけられるべきだということである」と同准教授は Brain and Language誌の論文(共著)で述べている。

こうした才能の発見は当然「ディスレクシアの人が持つ能力は実社会でのスキルにつながるのか」という疑問を呼び起こす。
ディスレクシアの人は法律、医学、科学などあらゆる職業についているが、専門家は芸術やデザインといった分野にディスレクシアは特に多く見られるとかねてから指摘している。
5年前にはイェール大学に「ディスレクシアと創造性に関する研究所」が設立され、ディスレクシアの長所の研究と啓発活動を行っているほか、設立7年目となるハーバード-スミソニアン宇宙物理学センター視覚学習研究所では、視覚に関わる科学領域においてディスレクシアが発揮できる能力について研究を進めている。

■宇宙物理学者に必要な、視覚的パターンを見抜く能力が高い

同研究所長で宇宙物理学者のMatthew Schneps氏は、宇宙物理学の分野では、膨大な量の視覚的データから意味を見いだしたり、ブラックホールなどの存在を示すパターンを正確に見抜く能力が必要だという。

Schneps氏らは、ディスレクシアの方がこうした作業を行う能力が高いという。同氏らは2011年、米国天文学会会報で2つの実験結果を発表した。第1の調査によると、外宇宙からのラジオ波のグラフを宇宙物理学者たちに見せたところ、ディスレクシアである宇宙物理学者の方が非ディスレクシアの宇宙物理学者と比べ、ブラックホールに特有の性質を良く見抜くことが時にあったという。
2の調査では、Schneps氏は何枚かの天体写真の高周波のディテールをぼかした画像を作成し、ディスレクシアと非ディスレクシアの学部生数名ずつに見せた。ディスレクシアの学生は画像に含まれる情報を見抜き活用することができたが、非ディスレクシアの学生たちは画像を解読することができなかった。
ディスレクシアは一般に「学習障害」と呼ばれることを考えると、特に後者の結果は驚くべきものだ。というのも、「状況によっては、ディスレクシアの人のほうが学習能力が高い」ということを示しているからである。

■大量のLの中からTを見つけ出す
同様の実験結果はほかにもある。2006年、米国カソリック大学で心理学を教えるJames Howard Jr. 教授は「Neuropsychologia」誌にある実験結果を発表した。それによると、コンピューター画面の上に大量にLの字が散らばった中に、1つだけあるTの字を見つけ出すという実験で、ディスレクシアの人のほうが短時間でTを見つけ出すことができたという。
ディスレクシアがどのような特別な能力を人に与えようとも、読み困難はやはりハンディとなる。ディスレクシアを「天賦の才能」としてほめそやす論調は、良くて無益、悪くて上から目線と言えよう。とはいえ、ディスレクシアの人に特有の性質を明らかにすることは、ディスレクシアという状態をより完全に理解できる手助けとなるはずだ。そしてディスレクシアの人に対する教育を、弱みを矯正するだけでなく強みを生かすような方向に向けるかもしれない。

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Schnepsの実験部分の英語がいまいち不明瞭だったので調べていたところ、
CRNというベネッセ系の研究所内のブログの

が、Schneps氏の別の論文に触れていました。
 「・・・視野中心部は順次的に探索していく必要のある情報の分析に向いていて、周辺部は広い範囲を同時に素早く分析するのに適している・・・この論文の中で、ディスレキシアの人は高いPCRparameter of periphery-to-center ratio、視野周辺部を好んで使う率)数値を示し、視野周辺部を使って字を見る人が多く、視覚情報処理の軽い異常があることが明らかになった。」

 「アメリカで活躍している野球選手のイチローはあの超高速のボールを見てバットを振っているそうだが、彼のPCRを測ってみたいものである。」

たしかに、野球以外にも、視野の周辺部を重点的に使うスポーツは多い気がします。スポーツにディスレクシアが有利に働くのはこのあたりとも関係があるのかも?


うちのやつは、学校の休み時間に鬼ごっこをしていて、ドアのかんぬきに目をぶつけそうになり、
すんでのところでよけて、あと5mmずれていたら眼球直撃Σ( ̄lll)ということがあったり、

階段を上から下まで転がり落ちて、骨でも折れると横で見ていた人が覚悟を決めた瞬間、
最後に着地を決めたり(本人談)、

逆に保育園の頃には、駐輪してある自転車の列の中に走り込んでいって正面衝突したり(笑)

といった、不思議なヒヤリ・ハット事件がいくつかありましたが、

何か中心視野と周辺視野と関係があるのでしょうか?


周辺視野の良さを生かすような学習教材も、考えられるかもしれません。
上のブログでは、 
ディスレキシアと視覚学習との関係を教育学的に確実なものにするには、「一つの素材の中に空間的に配置された複数のものを比較する」ような学習教材から学ぶことが得意であり、
とありますが・・・。



上のブログからたどっていくと、EUが出資したNeuroDys(ディスレクシアの遺伝子と神経生物学的経路)という研究プロジェクトにたどりつきました。
NeuroDys2011年に終了し、サマリーも発表されています。
次はこれを訳してみます。

2 件のコメント:

  1. 左右盲が知りたく読み続けていき、ディスレクシアをここのサイトで知りました。自分もディスレクシアの気質が少しあるのではないかと思いコメントさせて頂きます。
    上記の記事で「ディスレクシアは周辺視野が鮮明である」「ディスレクシアは周辺視野の認知能力が高い」と書いてありますが、自分は歴史の勉強をしてる際、ある人(歴史上で重要な人物(例えば足利義政))を覚える時にエピソード記憶(足利義政は絵画や芸術が好きで晩年は奥さんと周りの親族に政治面を任せていた(牛耳られていた)、応仁の乱は奥さんがお金を支払って止めさせたという説がある等)で関連付けています。この周りのエピソードは覚えているのですが、本人が成し得た教科書に載っている様な事や、本人の名前を覚えていない事の方が多いです。これは視野中心部が欠いているのと同じですか?

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    1. ほんとですね!
      上の記事はおそらく視覚的な視野の話をしていますが(実際、自分は文字通り視野が広いんだと語っている生徒がいます)、匿名さんのおっしゃる通り、概念的な周辺事項についても言えるのかもしれませんね。
      「固有名詞は覚えていないが大きな流れはよく覚えている」がディスレクシアの特徴です。

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